直前  -the calm tempest-

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 ジパングからしか行けない土地に、水華の実家はある。何処にあるとも知れぬ孤高な無人の大陸で、唯一存在する有人の小さな城だった。 ――水華もたまには、おば様達に遊びに連れてってもらえば? ずっとここに引きこもってるよりさぁ。 ――つーたって、オフクロ達も滅多にこっから出ないし。  ラピと旅に出る半年前までは、水華はほとんど遠出したことはなかった。 ――ここなら京都のゲートに近いのになぁ。おば様達だってお出かけしないわけじゃないんだし、その時にもっとついていかないの? ――その度に家事一週間独占の刑とか、いちいち執行されるからイヤ。  この世界には至る所に、空間を超え土地を繋ぐワープゲートという短絡経路がある。出口が固定したもの、固定していないものを合わせて無数に存在している。  固定していると確認された安全なゲートは誰でも自由に使える。様々なゲートが存在する中、水華の実家近くに繋がるゲートは、特定者が複雑な力を行使しないと使えないものだった。 ――ほんとに、世界地図に無いような場所だもんね、ここって。 ――海に出たって絶対大嵐で、岸に打ち上げられるし……。  そのため水華は、出入りしたい場合は周囲に頼るしかない。養父母に連れられて世界中を旅するラピとは対照的に、真性の世間知らずとして育ったのだが……。 ――大丈夫。あんたは頭は悪くないから、すぐに旅慣れるわ。  魔道など、知識の吸収が良く、魔法と剣を既に達人レベルに操る水華。順応性も高い養女を旅に出すことに、育ての両親は不安を全く見せなかった。  水華が実家を出て、早くも半年以上になる。  ジパングから船に乗り、東の大陸、南の島、北の島、そしてまた南の島と、実に密度の濃い旅を二人はしてきていた。 「いっぱい色んなヒトに会ったねー。また会えるといいね」 「……会わない方がいいって、言われた奴もいるでしょーが」  柵の上に立ち上がったラピが、バランスを取りつつ歩き出すのを、嫌な気分で水華は見上げる。
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