直前  -the calm tempest-

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「鶫ちゃんや蒼潤君はね。あ、何となく気が合いそうって、そう思えるものはずっとあったよ」 「へぇ?」 「でもくーちゃんのことは、未だにわかんないよ。よく伝話するし伝話してくれるけど、用もイミもない話も多いし、何でその時伝話きたんだろ、ってこともよくあるし」 「あー。そんな感じね、確かに」  ラピが持つPHSは、遠出の仕事に出がちの養父母と、有事の際に連絡をとるため渡されたものだ。用事や理由がない時に話すことを、最初の内にはラピは戸惑ったらしい。 「でもそれ、わかんないって首傾げるほどのこと?」  珍しく常なる笑顔を薄れさせ、深く考え込むラピにその違和感を伝えた……次の場面のことだった。 「……くーちゃんはどうして、私に笑ってくれるのかなって。私は……ホントはみんなと、一緒にいられる資格はないのに」 「――は?」  困ったようにラピが笑った瞬間、前触れもなく、穏やかだった船が大きく揺れた。  あれれ、と呟くと同時に、ラピは背中から海に落ちていった。  そんな光景を、まじまじと思い起こす。  半年前と同じように海に消えた相方について、水華はぐう、と悩ましげに考え込んだ。 「さすがに……有り得なくない?」  前回は嫌々、助けるために水華も海に飛び込んだ。  しかし思いの外手間取ったため、船は遠くに行ってしまい、ジパング近海の孤島に何とかラピを連れて辿り着いたが、その後が色々悲惨だったのだ。 「……あれをもう一度、あたしにやれっつーの?」  そして水華は、意識のないラピを孤島に置いて旅立つ。  それでも東の大陸でラピに見つかってしまい、諦めて同伴しているわけだが……。  水華は元々、決断は早い方だ。  考えるより先に動くこともままあり、それなのに今は呑気に甲板に立ったままだ。 「悪いけど――……付き合い切れないわよ、さすがに」  あまりにあっさり、通常は考え難い、非人道的な決断を下す。 「あたしの邪魔をするならついてくるなって、前にも言ったよね」  ラピを守れ、と、育ての母の言葉も当然覚えている。  それとこれとは話が別と、くるりと踵を返し……なかったことかのようにして、場を後にした水華だった。
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