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-at that time-
――は……? と。水華は一瞬、きつく目をつむった。
海に落ちたカナヅチの相方を孤島の洞窟に運び、やっと意識を取り戻した時だ。突如冷たい石床に叩き付けられて、水華の全身に強い痛みが走った。
「……何……あんた、誰?」
馬乗りになり、細い首に手をかけてくる相方。深い青のはずの目に、きらりと殺意が金色に光った。
この相手には、相方の名前を呼びたくない。何故か一瞬でそう思わせる輝きだった。
彼女は、くすりと――
瑠璃色の髪の娘が抑え続けた、最も深い闇を口にした。
「ねぇ、水華……水華なら、助けてくれるよね?」
「……はい?」
「ラピスを助けるために……水華を全部、私にちょうだい?」
その痛みはいったい、誰のものであるのか。
非力な娘が化け物の水華を圧倒する、理不尽な胸の痛みがあった。
「私と……一緒、に――……」
同じ赤い夢の下、時を止めた二人の少女。その夜は今もなお、続いている。
夕闇の中、不思議と明るい洞窟の岩肌が少女達を白く囲む。
絞め上げられて視界の翳む水華には、まるで真っ白な夜の悪夢だった。
それでも水華は、閉ざし続けていた目を開ける。
「悪いけど――……付き合い切れないわ」
いつかは夢の先に進むために。前だけを見る少女を、赤い夢は縛り続ける。
To be continued Atlas' ver.2. -Cry/B-
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