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数分後。少年は、気付けば広がっていた赤い光景に息を呑んだ。
「……え?」
目前には、赤まみれで転がる女と一つの人形。
手元には青銀の刃を赤く染めた、黒い柄の剣。
「……オレ……なんで――?」
自分以外は誰もいない見知らぬ部屋で、茫然と呟くしかできなかった。
力無く下がる片手に、凶器と思しき剣を携えながら。
空いた手で胸を強く掴み、金色の髪の少年は両膝をつく。
「――……いた、い……」
まず間違いなく。吐き気を堪えながら、少年が置かれた事実を冷静に直視する。
その平穏な建物の一角を、真っ赤に汚したのは少年なのだ。今もまだ握り締める剣の柄の鈴玉へ、手を染めた赤がするりと伝う。
それでも少年にとって、ただ不思議だったのは、足元の女には確実に息があること。それだけだった。
「何でオレ……殺して、ない――……?」
胸を貫かれた女の痛みが、こうして直観で伝わる限り、女はまだ死なずに痛みを感じている。少年はきっと、女を殺すつもりでここに現れたはずだったのに。
しばらく忘れていた赤い夢が、ふっと、倒れ込む少年の脳裏をよぎった。
――あいつだけは――絶対に殺す。
そうだった。この女は確か、少年の獲物ではなかったはずで……――
赤い部屋に崩れ落ち、赤まみれになった袴のように、そのまま血塗られた夢が少年を満たしていった。
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