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「いいか? 今度からこんな当たり前のこと、説教させんな!」
数日後。
金色の髪の少年がいつも、剣の鍛錬を受ける離れの道場に、師匠が赤い髪をふるわせるほど思い切りの良い怒声が響いた。
「一方的な刃傷は禁止! そもそも御所内での戦闘も不可だ! 何かあったらまず報告して、それから行動の判断を仰げ!」
袖なしの黒衣に紫の袴。いつもの姿で正座させられた少年の後ろで、袖を破った長袴スタイルの兄弟子が首を傾げた。夕焼け色の鳥頭をひねり、不思議そうに師を振り返っている。
「幻次さん。それだと、問答無用に襲われた時はどうするんですか?」
「自衛は戦闘に入らない。自分から喧嘩を売るなってことだ、蒼潤もな」
先日の場合、完全に金色の髪の少年から、刃傷相手の居室まで押し入った形だった。
「……うん。ごめんなさい」
どう考えても、説教程度の処分では済まないはずの、危険人物であるヒト殺しは、
「今度から――御所の外でするように気を付ける」
「全然わかってねぇ! 先に相談しろっつってんだ!」
そのように心温まらない遣り取りをかわしながらも、何だかんだでこれまで通りの生活に戻れた状態だった。
陽炎の姫。少年が剣を向けた相手は、東の大陸出身という忍らしき侍従を一人連れた、うら若き乙女だ。
自分にとりついた悪魔を祓ってほしいと、その姫は珍しい依頼と共に、この御所を訪れていた。
「蒼潤と悠夜両方から確認がとれた。あのお姫さんが連れてた人形の侍従は、アイツらを襲った人形と同じ系統だってよ」
姫と侍従を、偶然見かけてしまった金色の髪の少年は、その場で銀色に変貌していた。恐ろしいことに真昼間から、凶行に及んだわけだった。
「やっぱり、ユオンは敵を倒しただけなんですね」
硬派な兄弟子は、勘の良い少年にはそれがわかったのだと信じていた。それも侍従の正体が判明する前からだった。
「いつもユオンは、敵も味方も、攻撃される手筋もほとんど観えている。でもわかっていても、さばけないだけですしね」
褒められているのか、貶されているのか。鍛錬の度にぼこぼこにされる弱小な少年が、「本当はわかっている」と察知している兄弟子こそ、その剣気がわかる達人の域にあった。
師はそうした弟子達を知りながらも、遠慮なく苦言を呈する。
「相手が敵かどうかなんて、いくら勘が良くても、一瞬で全てわかる奴はいない。さらにはたとえ敵でも、問答無用で喧嘩を売るな」
先にその人形である侍従を斬り捨て、姫には普通の人間なら確実に死ぬ胸への一太刀のみで、銀色の髪に変貌した少年は事を終えた。
そこで少年も力尽き、赤く染まる部屋で倒れたのだった。
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