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「大体ユーオンも死にそうだったみたいじゃねぇか。そこまで無理して一人で戦ってんじゃねぇ」 「いてっ」  ごつん、と。剣の師は一度だけ、きつい拳骨を弟子に見舞う。 「お姫さんは順調に回復してるとよ。自分に憑いた悪魔だけを殺してくれた相手に、会ってみたいとさ」  そして心の底から嫌そうにする少年に、にやりと笑ったのだった。  本日の鍛錬が終わった後で。道場の掃除をしながら、兄弟子が真面目な顔で尋ねる。 「なあユオン。悪魔だけ殺すってどうやるんだ?」 「さぁ? 完全にまぐれなんじゃないかな」  「銀色」の時のことを少年はあまり覚えていない。さも、他人事のように答える。 「オレにわかるのは、弱そうなとことか、雰囲気だけだし」  少年は剣技で全く兄弟子に敵わない。しかし兄弟子が言っていた通り、攻撃がどう来るかなどは、避けられないだけでわかっている。そんな周囲の現状を感覚で看破する勘の良さ――直観という珍しい特技があることを、兄弟子も師も剣士の嗅覚で気が付いていた。 「それですぐ、あの忍者が人形だってわかったのか?」 「多分。ジュンが言うほど、はっきりわかったわけじゃないけど」  侍従の方が人形であることは、一目でわかった。しかし以前に彼らを襲った者と同系統とまで、その場でわかったわけではない。  それでもその時、これは敵だと。それもなるべく、この御所に住まう者達に近付けてはいけない――  激しい思いが根拠なく湧き出し、気が付けば赤い部屋にいた少年は、バツが悪い心で再び目を伏せた。 「……ヨリヤに迷惑、かけるのにな」  わかり切った行動の結果。何故それを無視して、「銀色」がそこまで強行に出たのか……。  その過程については、少年自身も重い気持ちを抱えていた。  人形の侍従を連れていた姫は、侍従がいなくなってみれば、何故自分がその侍従を連れていたかわからないと、当惑しつつ語ったとのことだった。 「人形の出所は結局不明だと、父上は仰ってた」 「……あの女の関係者じゃないのか?」  それは真っ先に疑われて然るべきだ。忍という類の恰好をしていた侍従は、東の大陸伝統のフリーの護衛集団だ。誰でも護衛に雇える上に、正体は明かさない不文律にある。だから身上も追跡不能なのだ。 「それなら姫も、侍従の正体を知らなかったことは有り得るだろうって」 「それって……ジュンはどう思う?」  蒼潤の名を、少年からはジュンと呼ばれる兄弟子は、首を傾げる。
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