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「何か変な気はするな。自分に憑いた悪魔を祓ってくれなんて、本当に悪魔が憑いた奴が言うのか?」
だからその姫が何がしか、怪しい相手であることには変わりがない。兄弟子は難しい顔をしながら雑巾をしぼっている。
「……」
それなら何故、「銀色」は相手を生かしたのか。少年は暗い面持ちになる。
余程無害とみなさない限りは有り得ない。斬るほど有害なら殺し切らなければいけない。それでも少年は、兄弟子の言も大きく頷けた。
だからその根本的な問いを、無意識に口にしていたのだった。
「……『悪魔』って、何なのかな……」
そんな少年の元へ、ひょっこりと、
「『魔』というのは、ヒトから奪わないと生きられないもの達、全般のことみたいだよ」
幼いながら、聡明で落ち着いた声が響く。発信源に少年が振り返ると、にこにこと、黒く短い髪に袴姿の和服の子供が穏やかに微笑んでいた。
「――ユウヤ」
少年をこの御所に引受けた公家の、ミニチュアとも言えそうな公家の次男。それが兄の蒼潤と少年の元まで来ていた。
「『悪』がつくと、どう変わるのかはよくわからないけど。あまり良いイメージはどうしても湧かないよね」
「……なるほど。ユウヤは本当、頭いいな」
名だたる術師の公家の血をひき、この幼さで既に大人顔負けの天才術師である子供は、公家というより武家の子供のような恰好だ。立ち居振る舞いも少年達より洗練されていた。
「兄様達。泉の広場に、各地で評判の旅芸人一座が来ていると聞いたんですが、みんなで観に行きませんか?」
「旅芸人一座? 珍しそうだな」
「――オレは遠慮する」
条件反射のように即答した引きこもりの少年は、御所に引受けられる前から基本、住む場所の外にあまり出たがらなかった。
「そんなこと言わずに。『同行』、『要請』」
「――!」
びくっと、念を込められた子供の声に、少年は静電気が走ったように体を震わせる。
「一緒に行こうよ。きっと楽しいよ」
楽しそうに笑う子供に、呼吸が止まる。これは断ることが不可能な事態だ、と悟る。胸を掴みつつ、ぎぎぎと頷かされる。
その後は何も言わず、ただ怪訝な思いで黙り込む。
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