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 花の御所でよく関わる三人の子供と、旅する芸人の一座を見物に行った金色の髪の少年は、始終黙り、辺りを窺い、まさに挙動不審の引きこもりだった。 「びっくりしたね。あそこまで堂々と、『力』を使った芸を沢山の人前で披露するなんて」 「一般のヒトにはわからないんじゃない? 蒼も、気を付けて見てないと普通に見えたでしょ?」 「ああ。かなり巧みに自然に擬態されてた」  楽しげに感想を語る公家の子供二人と、剣の師の娘。京都で少年の言葉が通じる子供は、彼らに加えて後一人だけだった。 「あれは、(くぬぎ)にこそ見せたい感じね。猛獣と火の輪くぐりとか、槶なら目を白黒させるんじゃない?」 「確かに。一座もしばらくいるみたいだし、今度連れていこう」  元々馴染みのグループであったらしい、四人の子供。  彼らは誰一人、少年から見れば尋常ではない、「千族」の末裔のように思えた。 ――何か……それでも、平和……だよな。  化け物同士ではあるのに、何故か、共に在ることが後ろめたかった。それほどマトモに観える普通の子供達。 ――……いいのかな。オレは、ここにいて。  少年には、これまでの自分の記憶が無い。気が付けば今、この身体を動かしていた。  そしてそれは、同行の彼らを襲った謎の人形と、本当は大差ない存在であることを知っていた。 「……あれぇ? ――ねぇ、待ってぇ!」  その日の芸を終わった一座を後にした時、彼らの背後から、突然そんな幼い声色が響いた。 「イーレンちゃん!? イーレンちゃんじゃないのぉ!?」  声の主はそして、駆けてきてばっと、少年の背中を掴む。  これでも知り合いが増えていた少年は、御所に来る前には、なるべく外には出ずに生活していた。  この春に、瀕死の状態で倒れていた少年を拾ってくれた、若い養父母とその養女。彼らはそんな少年の事情に踏み込まず、少年が何か思い出し、自ら語るのを待っていてくれた。  それでも外の世界に出てしまえば、現実はこうして遠慮なく少年に踏み込む。 「心配したんだよぅ! 今まで何処にいってたのぉ!?」  その声の主……よりによって今まで観ていた一座の花形、「咲姫(さきひめ)」という肩書きの女役者の一人が、涙混じりに金色の髪の少年の元へ駆けてきていた。 「……え?」 「「「――!?」」」  言葉を失った少年だけでなく、同行の者全てが呆気にとられる。  少年の背にしがみつく、異国の人形のようにふわふわ髪で幼げな花形を、まじまじと見つめることになった。
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