一年前 -遠くへ-

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 世界の化け物を管理する「四天王」は、基本的に魔王――魔界の王の手先で、何故この宝界の治安を任されているのか、十六前まではかなり理不尽な状況だった。  それでも世界は十四年前に変わった。宝界を守るための天上の宝、「宝珠」を手にした「守護者」達が、魔王を打ち倒したことによって。 「あー、元気してるかなー……『守護者』の奴ら……」  十四年前には、彼もまだまだ現役だった。世界の各地に散らばった「守護者」を探して、あまり力にはなれなかったものの、一人一人と顔見知りになり、ディアルスにとっても「守護者」は敵対する存在ではないと確認できた。  中でも彼と三カ月寝食を共にし、武器の扱いを鍛えてやった守護者の少年を思い出すと、不覚にも顔がほころぶ。  守護者は「青の守護者」、「赤の守護者」、「白の守護者」、「黒の守護者」と、四人いる。本来、守護者とは天界人という系譜のはずが、黒の守護者は唯一の異端者で魔性の吸血鬼だった。成り行きで命を助けたその少年は、彼が育てたと言っていい師弟関係でもある。たった三カ月ではあるが。  なので、「レスト」の滞在先の沢山のテントで「黒の守護者」を見つけた時には、あまりの想定外に茫然としてしまった。 「――あれ? 何で、ラティ兄ちゃんがここに?」  何故こんなところに、「黒の守護者」が。それ以前に、その守護者――今では青年の姿となり、青銀に光る月白の髪と鋭い蒼の目を持つ吸血鬼が、よりによって騎士の扮装で芸人達と芝居の稽古をしている謎を、彼は目の当たりにしてしまった。 「いや、それ……オマエ、何してんだよ?」  どう見ても「レスト」の一員化している。世界を守っているはずの「黒の守護者」が。 「あー……うーん……これには深いワケが……」 「いや、深くねーだろ。何でオマエが、行方不明の奴の代役させられてんだ、アラス」  彼と同じように、消えた護衛の穴を埋めるように頼まれたらしい。それくらいはわかる。彼にも「護衛がやっていた役をしてほしい」と頼まれたからだ。彼が断わったために、何故か黒の守護者にお鉢がまわったのだろう。  今も昔も敏い彼に、守護者は少年の頃と変わらないあどけなさで、そうそう、と笑った。その大人びたキレイな笑顔が逆に、彼らの遠さを感じさせたのだった。
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