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 しかし少年は、あえて冷静に――さらりと返答を口にした。 「あんた……誰だ?」 「――!?」  しがみつく相手に振り返り、落ち着いた声で言う。その顔を見上げた幼げな花形は、涙を飲み込んだような顔で、 「……あれ。……何か、ちょっと、違う」  不思議そうに、かつ不服そうに口にした後、強く首を傾げていた。 「そっくりなのに……顔だけちょっと違うよぉ?」 「それ、そっくりって言わないわよ」  ようやく我に返り、ビシっとツッコミを入れた師の娘だった。 「あの、ここは目立つから、ちょっと向こうに行きませんか?」 「そうだな。何だか用心棒とか呼ばれそうな雰囲気だぞ」  人目が集まりつつあった状況を気にする兄弟に、うん、と少年も頷く。戸惑う幼げな花形を連れて、場所を変えた彼らだった。  幼げな花形。それでも一座の「咲姫(さきひめ)」の一人は、(るん)と名乗った。 「あなた、ユーオンのこと、何か知ってるの?」  まずそう尋ねた師の娘も、公家の子供達も、少年が記憶喪失であることは知っている。 「ユーオン? そんなヒト知らないけど、イーレンちゃんは、るん達の仲間だよぉ」 「イーレンって誰だ、そもそも」  コイツはユオンだぞ、と。ある占い師の力で名前だけはわかっていた少年を指し、兄弟子が冷静に口にする。 「おかしいなぁ……後ろから見たら、そっくりだったのに」 「……」  幼げな花形は困ったように、胸元で手を組む。黙り込む少年を祈るように見つめ、その一座の事情を説明し始めた。 「イーレンちゃんはね、この春まで、るん達を守ってくれてた妖精さんなんだよ。でもある日、突然いなくなっちゃって……るんはずっと、イーレンちゃんを探してたんだよぅ」  世界各地をまわる芸人一座は、魔物や山賊など敵には事欠かない。一座の者自体、人間でない者も多いというが、護衛の必要性は大きいようだった。 「この剣もそっくりだし、姿も妖精さんぽいし……やっぱりアナタ、イーレンちゃんじゃないの?」 「……ごめん。オレはあんたと、話したことはないよ」  ウルウルと大きな目を潤ませている人形のような花形に、少年はあくまで淡々と答える。
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