4人が本棚に入れています
本棚に追加
/425ページ
しかし少年は、あえて冷静に――さらりと返答を口にした。
「あんた……誰だ?」
「――!?」
しがみつく相手に振り返り、落ち着いた声で言う。その顔を見上げた幼げな花形は、涙を飲み込んだような顔で、
「……あれ。……何か、ちょっと、違う」
不思議そうに、かつ不服そうに口にした後、強く首を傾げていた。
「そっくりなのに……顔だけちょっと違うよぉ?」
「それ、そっくりって言わないわよ」
ようやく我に返り、ビシっとツッコミを入れた師の娘だった。
「あの、ここは目立つから、ちょっと向こうに行きませんか?」
「そうだな。何だか用心棒とか呼ばれそうな雰囲気だぞ」
人目が集まりつつあった状況を気にする兄弟に、うん、と少年も頷く。戸惑う幼げな花形を連れて、場所を変えた彼らだった。
幼げな花形。それでも一座の「咲姫」の一人は、淪と名乗った。
「あなた、ユーオンのこと、何か知ってるの?」
まずそう尋ねた師の娘も、公家の子供達も、少年が記憶喪失であることは知っている。
「ユーオン? そんなヒト知らないけど、イーレンちゃんは、るん達の仲間だよぉ」
「イーレンって誰だ、そもそも」
コイツはユオンだぞ、と。ある占い師の力で名前だけはわかっていた少年を指し、兄弟子が冷静に口にする。
「おかしいなぁ……後ろから見たら、そっくりだったのに」
「……」
幼げな花形は困ったように、胸元で手を組む。黙り込む少年を祈るように見つめ、その一座の事情を説明し始めた。
「イーレンちゃんはね、この春まで、るん達を守ってくれてた妖精さんなんだよ。でもある日、突然いなくなっちゃって……るんはずっと、イーレンちゃんを探してたんだよぅ」
世界各地をまわる芸人一座は、魔物や山賊など敵には事欠かない。一座の者自体、人間でない者も多いというが、護衛の必要性は大きいようだった。
「この剣もそっくりだし、姿も妖精さんぽいし……やっぱりアナタ、イーレンちゃんじゃないの?」
「……ごめん。オレはあんたと、話したことはないよ」
ウルウルと大きな目を潤ませている人形のような花形に、少年はあくまで淡々と答える。
最初のコメントを投稿しよう!