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「ソイツがいなくて、あんた達は困ってるのか?」 「……ううん。新しい護衛さんも見つかったし、(りん)もみんなも、妖精さんは気まぐれだから、忘れようって言うけど……」  一座のもう一人の「咲姫」の名を口にしながら、幼げな花形は目を伏せた。 「でも霖はずっと、辛そうだよぉ。るんは……それが、心配」  そこまで聞いても、少年はそれ以上何も口にしない。花形は残念そうに見つめた後、呼び止めてごめんね、と、ぺこりと頭を下げて、一行を後にしたのだった。 「――どう考えても、怪しくない?」  幼げな花形が去った後に、その花形より幼いが聡明な子供は、無表情な少年に真っ先にツッコミを入れていた。 「ユーオン君は、春くらいからジパングにいるんだよね?」 「……」 「それ以前の記憶がないっていうなら、あのヒトの話と合うんじゃない?」  春先から行方不明になったという妖精と、妖精の身体的特徴を備える、春から現れた謎の少年。顔だけは少し違うと言うが、体格や髪や目の色、そして剣までよく似るらしい彼ら。 「それより俺は……ユオンが、ためらってたことの方が気になる」  兄弟子がぽつりと、黙っている少年をまっすぐに見て、それを口にした。 「外に出るの、かなり嫌そうだったもんな。最初」 「…………」  何も語らない少年が、絶対服従の呪いに抵抗してまで、外出を嫌がっていたわけ。その心に気が付くように。  兄弟子の鋭い一言に、少年は観念した思いだった。 「……うん。知り合いに会うかもしれないのは、嫌だったんだ」  特に表情を変えずに、あっさり白状する。嘘をついてみたところで、呪いの言霊で事情をきかれる可能性があるだけだった。 「じゃあ、やっぱりあのコとは、知り合いなの?」  怪訝な顔をする師の娘に、少年は困った気分で笑う。 「自分のことは覚えてないけど。あいつらのことは、知ってる」  そうして、その中途半端な記憶喪失の片鱗を、そこで話し始めた。
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