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精・妖刃。発音がしにくく、一座の者からイーレンと呼ばれていた名前を、少年はたどたどしく口にする。
「オレの知ってるソイツが、あいつらの護衛をしてたんだけど。ソイツ、死んだから……だからあいつらには、会いたくないんだ」
一座の者には、知らせたくない。それだけ伝えて、紫の目を伏せる。
「じゃあ、ユーオン君の、知り合いの知り合いってこと?」
「そうなるかな。妖精らしいことは、改めて知ったけど」
「それじゃ……ユーオンは結局……その知り合いの妖精と同じ、妖精。って類になるの?」
「――え?」
この少年のことも元々、姿形から養父母はおそらく妖精――精霊にしては強い自我を持つ、「妖」と言える千族と検討をつけていた。しかし今までは確信がなかったことでもあった。
「多分……わかりやすく言えば、オレも妖精なのかな」
記憶を辿って言う少年に、師の娘が不思議そうに首を傾げる。
そこで兄弟子の弟、聡明な黒髪の子供も同じように首を傾げた。
「妖精なら羽があるはずなんだけど……」
有名なその妖の特徴を思い浮かべ、まじまじと少年を見る子供に、ただ少年はキョトンとする。
彼らがそんな話を、まさにしている時――
「――イーレン!? イーレンじゃない!?」
つい先程と全く同じ声が、二たびかけられていた。
あからさまに、うわ……と困った顔をする少年の後ろで。今度は二人、先程とは違う人影が来ていた。
「ルンから聴いたの……! お願い、その剣を私に見せて!」
一人は一座のもう一人の花形。「咲姫」としての名は霖という、先程の幼げな花形とは対照的な、黒髪を首元で丸く結わえるジパング風の美女だった。ただジパングの女性は、ここまで露出の多い踊り子の姿はしないだろう。
「……霖。迂闊に近付かないで下さい」
対してもう一人の、護衛らしき女は、ジパング風の羽織物と、その内に下衣を身に着け、がちりと全身を覆う珍しい服装だった。どちらかと言えば、ジパングの名が「ヤマト」や「和の国」であった旧い時代の、「漢服」に似た装いだと後で少年は聞く。
「……――」
珍しい白青の長い髪をまっすぐ垂らす護衛が、薄青い目を少年にじっと向ける。
少年はその薄青い目に、声を呑んで唐突に固まる。
「――」
この動き難そうな恰好の護衛は、恐ろしく強い。その威光を感じ取った。
少年の髪が一瞬で銀色に変貌した。
戸惑いの紫の目を忘れたように、迷いなき青の目で少年は、待ったなしにギラリと、袴に下げた剣を抜き――
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