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「人形――って……」 「嘘だろ?」  最近、周囲が不穏な人形づいている彼らは、あまりに人間に近い人形に言葉を呑む。  少年が咄嗟に剣を抜いた理由も、それだったのか。そう知って、一座の花形と、黙って見つめ合う少年を思わず振り返っていた。 「……そいつ、生き物じゃないのは確かだと思う」  少年はそれだけ答える。身の内で警鐘を発する「銀色」が、師の娘の「言霊」に縛られたままで余裕がないので、口を閉じることしかできなかった。  師の娘は冷静に、護衛を見ながら問いかける。 「でも……アラス君の知り合いなのよね?」  娘の父の知り合いの「死神」は、ふらりと御所に来ては娘達を連れ出してくれる遊び人らしい。御所の管理人の公家と同じ、「守護者」という肩書きを持つ者でもあった。 「主が預かる様々な『力』の一つを、この人形は受けています。自律起動できる『力』は私くらいでしょうが、主の命により、少し前から護衛を失った『レスト』の手伝いをしています」 「じゃあ、護衛はアラス君の命令なんですか?」 「行きずりの縁で『精妖刃』の代役を引受けた主が、更にその代役を、この人形を入手してまで私に押し付けたのです」  護衛は無表情ながら、非常に不満そうだった。常にフラフラしている主を咎める目つきを隠そうともしていない。  「レスト」とは、この旅芸人一座の正式名称だ。各々の座員は体を鍛えた、人間や人間に近い化け物らしく、護衛としての出番自体は多くないという。 「……そうね。『(リタン)』が来てくれてからは、新しい客層が広がったって、マネージャーも喜んでいるわ」  黒髪の花形が言うように、少し大がかりな舞台では護衛まで舞台に参加させられるということで、それが護衛は不満らしい。 「でも、イーレンが急にいなくなって、レストの空気は殺伐とするようになって」  露出の多い服を隠すケープを羽織った花形が、胸元の蝶型のペンダントを触りながら、そこで目を伏せていた。 「イーレン、凄く明るくて、いつも何でも楽しそうだったから。妖精ってみんなそうだって言うけど、私も本当に助けられてたわ」 「…………」  思う所があった少年は、無表情に黒髪の花形を見つめる。花形はひたすら辛そうに俯く。
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