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「こんな話をするのは、恥ずかしいけど。もう一人の咲姫……ルンは、イーレンと付き合ってたの」  え。と何故か、少年をちらりと子供陣が見る。 「でもイーレンがいなくなる前、ちょっと色々揉めてたみたい。ルンは淡々としたものだけど、イーレンは落ち込んでたし」  だからもう、その妖精は帰らないだろう、とさっぱりした顔で花形は語った。 「イーレンは剣マニアだったから、何回も剣を買い替えてたわ。いい剣ばかりだから、いつかどれか、私にくれるって……そう約束してたの」 「……」 「だからもし、それがイーレンの剣なら、譲ってくれないか、お願いしちゃおうって思ってた」  てへへ。とばかりに、軽く舌を出す花形に、少年は淡々と、その答を返していた。 「……誰の剣でも……これは、譲れない」  そっか、と花形は、あっさり諦めたように爽やかに笑った。  そして次の瞬間には――にこりと、整った笑顔を浮かべた。 「それじゃ今度は、『レスト』としての話をしていい?」  それまでの、何処か控えめな印象が打って変わる。  はい? と目を丸くする少年を中心に、全員に笑いかけた。 「私達は、こんな風に人間でないヒトに関わった時――私達の仲間にならないか、『ディアルス』に来ないかいつも尋ねるの」 「『ディアルス』?」  その知った固有名詞に少年は、眉をひそめる。 「別に貴方に、居場所があれば良いんだけど。もう世界中で、『千族』はどんどん減ってるというわ……『ディアルス』は、そんな千族にも公式に戸籍をくれる、数少ない大国なの」  ……と、少年は黙り込む。その反応は、想定内だったらしい。  興味があればまた話をしに来て、と、花形はあっさり話を切り上げ、帰っていったのだった。  とりあえず――と。  茶店を後にし、帰路についた一行の中で、不服気に口を開いたのは師の娘だった。 「ユーオンは、これで良かったの?」 「え?」 「そうだな。何か今一つ、何が何だかでスッキリしないな」  結局あまり、少年の事情がわからなかった彼らには、色々不消化らしい。 「ユーオン君の記憶の手がかり、あのヒト達はなりそうにないの?」  そこにほとんど、少年が興味を見せなかったことを含めて、全員が訝しがっている。  不透明なままの妖精の行方や、一瞬でも「銀色」が出てまで対峙した護衛。それについて、何も語らずにいる少年が気になるようだった。
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