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「――ごめん。ツグミ達には時間とらせて、迷惑かけた」 「そういうことじゃないでしょ? 別に……ユーオンが話す気がないなら、無理にはきかないけど」 「……」 「御所に来る前、何処で何をしてたのか。本当にユオンは、何も言わないよな」  記憶を失ったという春から、少なくとも半年、何処かではそれなりの生活があったはずの少年。  身寄りはない、知り合いは全て行方不明だと、それしか少年は語っていない。そのために今も、保護監察が続く身上でもある。  そして子供陣は、彼らにとっても関係がなくはない事項に、うーんと顔を悩ませている。 「アラス君も、大丈夫なのかな……最近調子が悪いって父様に言ってたのに、あんなに大きな『力』を単独行動させて」 「そうなのか? この間も来たけど、いつも通りに見えたけど」  人形に憑依する「力」である護衛。その主君について子供陣は心配らしい。  子供陣の知るところには自称死神は、何やら最近、東の大陸で大怪我をしたという。基本的に謎めいた青年で、彼らの父曰く「悪くない吸血鬼」らしいが――「レスト」を含め、昔馴染の知らない様々な所で活動しているようだった。 「それにしても、何で人形なのかしらね」  さすがにタイミングが悪いわよ、と。早速「絶対服従」を少年に強いることになった師の娘――公家の姪で、同じく「言霊」を紡げる呪術師が呟く。  そうした強制は本来好まないのだろう。不服気に少年を見つつ、口にしている。 「そっか。そう言えばさっきはありがとう、ツグミ」  対照的に、にこっと笑って少年は、赤い髪の娘に振り返った。 「……呪われた後にありがとうって言うバカ、信じられない」  娘には無害な笑顔に見えたらしい。頭痛を抑えるように息をついている。 「何か、胸がドキドキして、温かかった。何でかな?」 「バカ。そのまま心臓止まるわよ、下手したら」  厳罰としての「言霊」は甘く見てはいけない。逆らえば待つのは死だ。  それでも少年は、こうしてとても平和な顔で笑える。それが彼らの住む御所の一角を血で染めたなど、現場を見たわけではない娘は、初めはその厳罰に反対していた。  全く、と溜息をつく娘が何を葛藤しているのかよくわからず、少年は不思議な気持ちで見つめる。
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