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絶対服従。御所の管理者たる公家と、その周囲の術師達には逆らえない呪い。そうした罰をあっさり受け入れた少年は、主人の一人となった赤い髪の娘に、後に所感を語った。
「オレは多分、ろくでもないから。そうじゃない奴の言うことを聞いてた方がいいと思う」
「はぁ? 何よ、それ?」
うん、と。首を傾げて自ら考え込みつつ、素直な気持ちを伝える。
「ヨリヤもユウヤも、ツグミもいい奴だから」
こくこく頷きながら、公家の采配に、少年自身はとても納得がいっていた。
その少年の納得が、師の娘はあまり理解できないのだ。
「全く。悪いのは銀で、銀に負けるユーオンは弱々なだけよね」
「……なんで? それ、逆だと思うけど」
首を傾げる少年に、娘は更にイラっとする様子を見せた。
「だって、銀の暴走を、ユーオンが止められたら一番早いんじゃない」
「…………」
なるほど、と……娘の複雑な思惑がわかった少年は、しばし声を呑み込んでいた。
しかしそうなると、一つの誤解を解かねばならなかった。
「……オレは別に、止める気はないんだと思う」
そうしてそんな、反省のカケラもない返答をする。
「――何、それ?」
怪訝そのものの目で見る娘に、少年も少し怯む。
「いつも、何をしたのか覚えてない……わけじゃないんだ」
「銀色」である時のことを、全く覚えていないというのは誤りであると。珍しく自ら実情を口にした。
「それって――ユーオン」
「オレは別に、違う誰かになってるわけじゃない」
周囲は「銀色」と少年を、いつも分けて扱ってくれる。その方が物事が円滑にいくので、これまであえて口にしていなかったことだ。
「やったこと自体は、覚えてる。ただ単に、どうしてその時は、そうしようと思ったのか……その時に何を考えたのかが、どうしても思い出せない」
「…………」
厳しい真っ黒な目線で、師の娘が少年を見た。
「つまり……何を考えたかを思い出せば、ユーオンは銀と同じことをする。そう言ってる?」
「……うん。多分」
あのねぇ――と。頭痛を抑えるように片手で額を触りながら、師の娘は、やっと理解できたとばかりに、大きく頷いて言った。
「確かに必要みたいね。ユーオンには、その呪い」
だろ? と首を傾げる少年に、開き直るな! と頭をはたいてきた。叔父である公家の判断は妥当であったと、ようやく納得したようだった。
「弱いのは多分……銀の方なんだ」
ぽつりと。自身の暗闇を見つめるように、少年は呟く。
それでも、その力に頼る自身の咎に、悪いのは自分だと――当たり前のように現実を口にした。
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