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 その日はとても、少年にとっては疲れが大きかった。  傍目からは始終、淡々としたように見えた少年であっても、一番避けたかった旅芸人一座との再会。しかもそこにいた護衛の人形……どう観ても、これまでで一番強そうだった難物に、色々と複雑な思いを抱える。 「……あいつ。大人しくしてるかな……」  それでなくても問題を背負う少年への、天罰なのだろうか。  御所に帰り着いた少年を待ち受けていた、ある者の存在があった。 「――え?」 「お邪魔しております。アナタがユーオン殿でしょうか?」  貸し与えられた御所の一室。寝具と灯り以外は一切物が無い、飾り気や彩りとは無縁な少年の居場所に、その異物は居座っていた。 「……――」 「陽炎と申します。先日は非常にお世話になりました」  異物はただ、毒も薬も無い目付きで少年を見つめる。  土色の、肩までの癖の強い髪は、あまり着物には合っていない。  陽炎という儚い響きとは裏腹に、意志の強そうな雰囲気で、その姫は自分を殺そうとした少年を出迎えていた。 「……あんた……」  これは何の悪い冗談かと、少年は顔を歪めるしかできない。  その、特にこれといった特徴の無い、一見は無力そうな様子の姫君。  ジパングの風土に合わない「悪魔憑き」を、最初に少年が観た時だった。 ――あいつだけは――  数か月前に観ていた光景。  養父母の里帰りに同伴した時、少年を襲った赤く昏い夢が瞬時に顔を出した。 ――あいつだけは――絶対に殺す。  それが根本。そのためだけに、赤い夢の誰かはここまで来ていた。  けれどその夢は少年も、「銀色」も特に気にしたことはなかった。  広くはない少年の居所で、一角に居座っている侵入者。少年は特に感情は無く、金色の髪と紫の目のまま――  しかし警戒と嫌悪を隠さない声で、大事な問題を尋ねた。 「あんた……ここに、何をしに来たんだ?」 「それは――アナタに会いに来たに、決まっておりますが」  姫君というほど、気品や艶を伴うわけでもない一般的な女。  無難としか言いようのない微笑みを浮かべ、座ったまま、黙り込む少年をしばらく見上げていたのだった。
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