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「わたくしは元々、天に住まう民の一人でした」  かなり身幅のある剣で胸を斬られながら、絶命することのなかった姫君。人間には有り得ない速さでの回復をみせた者は、自身の身上をそう語った。 「天を支配する五つの家系の、中でも主位の家の分家として。主家の後継者に嫁ぎ、仕えることを定められた身でもありました」 「……」 「分家の身のわたくしには、何も大した『力』は存在しません。それでもなるべく濃い血を保てるよう、主家の後継者は分家から側室を取り、複数の世継を作っておくことが習わしでした」  その決まりは、主位の家系だけの話だという。他の四つの家は、基本的に一子相伝で続いていたらしい。 「他家が何かで途絶えた時には、主位の家に限り、その分家が他家の後継をすることが可能だったのです。わたくしのように、分家の更に分家でなければ、主位の家の血をひいた者は全員、一子相伝の原則に反した強い『力』を持っておりました」  姫君はそして、主家の後継者の候補。分家の一人息子に幼少から仕えていたということだった。 「しかし、わたくしの主は……魔性の者であることが後にわかりました。主を信じ続けたわたくしにも、いつしか『悪魔』が憑りついていたのです」  その後、姫君が悪魔憑きとなった経緯を、僅かに顔を顰めつつ話し始めた。 「魔性の……者?」  あくまで少年は警戒を崩さない。腰の剣に置いた手も離さず、黙って話の続きを待つ。 「アナタは魔界をご存知ですか? わたくし達天の民とは対をなす、地の底――魔界を本拠とするおぞましき者達を、総じて『魔族』というのです」  姫君も坦々と、少年にわかるように説明を加えて話を続ける。 「悪魔とは、元が何者であれ、悪に堕ちて『魔』となった者をさします。それはたとえ、天の民と言えど例外ではありません」 「…………」 「魔性――ヒトを喰い、自らの力とする性質を先天的に持った土着の鬼や妖怪は、魔族とはいえ悪魔ばかりではありません。魔性は彼らの一面であり、彼らは必ずしもヒトを喰わずとも生きられます。しかしわたくしの主は……共に育った自らの従兄を手にかけるほどの、悪しき『魔』へと変貌してしまったのです」
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