5/12

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/425ページ
 ヒトを糧とすることで、大きな力を得られる性質を「魔性」。そしてその糧なしに生を繋げなくなった者を魔性の者、または「魔」と呼ぶ。  真っ当に生きる者からすれば、誰もが蔑み、疎ましく思う生き物になった主。しかし姫君はそれを救いたい一心だった、と目を伏せて口にした。 「他家の後継者だった従兄を手にかけた主には、厳しい断罪が為されました。けれど――主が従兄を手にかけたのは、従兄が主の母を害したからなのです。わたくしだけが、それを知っていました。しかし主は、事実を明かしませんでした」 「……」 「その頃から徐々に、主の様子はおかしくなっていきました。唯一であり頑強である天の牢獄に幽閉され、元々はとても仲の良かった、腹違いのご兄弟……同じく主家の後継者候補だった兄君と妹にすら、一目も会おうとはされませんでした」  ただその姫君だけが、仕える相手の元に足しげく通っていた。しかし姫君にも何一つ語ろうとせず、やがて彼は、「魔性の者」として強い「力」を育て始める。 「誰も気付かない内に、主は『悪魔』と接触を持っていました。そして、本来は不可侵の聖地である天に悪魔を呼び込み、天の民と魔の者の、大きな戦いを引き起こしたのです」  そうして呼び込まれた悪魔の一つに、最後まで自らの主を助けんとした姫君は、気が付けば操り人形と化されていたという。 「その事変で、主は自らの妹を手にかけ……やがて天から姿を消し、この二百年、行方が知れない状態となりました」  そして、自身の孤独な長い旅が始まったと、姫君は苦く笑った。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加