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 護衛の依頼をにべもなく断わられた、元悪魔憑きの姫君。  その後は、新たな護衛と目的、行先が見つかるまで、公家の厚意で花の御所に滞在させてもらうということだった。 「そうか。やはりお主には気が進まぬか」  それはわかり切っていたが、と、正座して文を書いている公家が穏やかに笑う。  それでも姫君のたっての希望で、少年の居室を教えていた公家の元を、少年はその後に訪ねていた。 「ヨリヤ……あいつ。しばらく御所にいるって本当か?」  少年は別に、姫君の訪室に文句があるわけではない。ただ姫君が、このまま滞在することだけが、気になって仕方なかった。 「ここで追い出したりすれば、ますますわしも、お主の立場も、おそらくただでは済まぬよ?」 「…………」 「わしも後味が悪いしのう。やはり、悪魔祓いの件だけでなく、あふたーけあ。は大事だと思うのじゃよ」  ともすれば、姫君を殺しかねない事態だった。平穏な花の御所が血で汚された暴挙の後で、行く当てのない姫を見捨てるような行動を、その人のよい公家がとれるわけもない。  ぐう。と俯いて座る少年も、それはわかっていた。 「……あいつ絶対……天女とかじゃないぞ」  元は天にいたという姫君の話を一通り聞いた後で、少年が得た結論はそれだ。一応伝えるために、公家の元まで来ていた少年だった。 「ほほう。天女とはまた、言い得て妙じゃな」  あの客人を姫君と呼ぶことが、同じくしっくりこなかったらしい公家は笑う。 「お主はどうして、そう思うのじゃ?」 「あいつ、ヨリヤやゲンジと全然似てない。梅が言ってた……ヨリヤかゲンジは、元々は天にいたヒトの家系だって」  ほう。と公家は、少年が出した占い師の名と言葉に、面白そうな目をして少年を見返してきた。 「しかし、陽炎殿の話には、嘘は感じられなかったがのう?」 「……嘘は確かに……ついてないと思う」  それは少年も感じていた。それなら何故そう思うのか、自分でも不可解ではあった。
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