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「確かにわしも、胸を斬られて生きていられるとは思えぬのう」  少年の前で公家も、腕を組んで笑いつつ、不思議そうにする。 「と言っても、初めから心臓は外されていた。お主には何か意図があって、陽炎殿を生かしたようにしか思えないがのう」 「……へ?」 「お主が深追いをしなかったから、陽炎殿は生き延びたのではない。『銀色』には何か、陽炎殿を生かすべく考えがあったはずじゃよ」 「……何だ、そりゃ」  少年はてっきり、予想外に丈夫だった相手に、それ以上体力を消耗してまでとどめを刺すことを躊躇ったのかと思っていた。  しかし、最初から殺す気がなかったなら、それは―― 「それじゃ、ヨリヤに迷惑かけるだけじゃないか」  思わず腹立たしげに呟く。公家はまたも、おやおや。という顔で、穏やかに少年を見つめて笑った。 「殺すか生かすか。どちらかにしろと、お主は怒っておるのか?」 「……だって。生かすんだったら、傷付けることもないし」  逆に言えば、剣を振るうなら、殺す覚悟で臨むことが当たり前だ。  たとえ弱小の身でも、それが剣を持つ者の覚悟であると。  そんな少年に、公家は少しだけ困ったような顔で笑う。 「まるで――戦国を生きた兵のような覚悟じゃのう」 「……?」 「もう少し、肩の力を抜いても良いのじゃよ? 少なくとも、お主がここにおる限りはのう」  御所の管理者としての、公家は書類仕事らしき文をしたためながら、少年に笑いかける。少年はキョトンとしながら、公家を見つめる。
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