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「わしもこれまで、多くの敵を持って生きてきたが……敵でも協力し合えることもあれば、味方でも傷つけ合うこともあった」
それはヒトが生きる限り、不変の定めであると。公家は、少しだけ難しい顔で俯く。
「しかしお主のように、敵は全て斬り、味方には何事も負担をかけまいとするなら。お主はいつまでも、何処でも独りじゃよ?」
「――……」
その少年を最初に見た時から、公家は何かを哀れんでいた。この世界では異端者である少年を、知っていたわけではないとしても。
元来、術師として感受性が強く、「淋しさ」に敏感だった公家は、少年の根本的な欠損に無意識に気付いていたのかもしれない。
「お主は常に、ヒトより早く気が付き、また多くを感じておる」
「……?」
「だから何事も、自ら動き、すぐ対処しなければ気が済まないようじゃが……本当はそこまで、お主に余裕はないはずじゃよ」
公家がこの少年を、引き受けると決めた大きな契機。
最初に公家の子供に加勢し、「銀色」に変貌した後、少年は長く意識を失っていた。原因を調べるように依頼された公家が来るまで、目を覚ますことはできなかった。それで公家は少年に、袴の着用を勧めたのだ――少年の意識を保ち、命である剣を決して手放さないように。
戦う以前に、ただ生きることすら、本当は精一杯であるはずの旧い剣。その危うい孤高に自ら気が付いたのは、おそらく公家一人だけだった。
だからその少年を、放っておいてはいけないのだと。
「誰が滞在しておるか、御所のことをお主が気にする必要はない。それでもあの姫君が気になるのなら、わしも注意しておこう」
「…………」
公家の言葉は、ごく妥当であると納得している。
それでも何故か、しゅん……と、少年は気が塞いでいた。
「お主はそれ以上に、何が気にかかっておるのじゃ?」
楽しげに笑いかけた公家に、少年はただ、ぼやくように言った。
「……オレも何か……ヨリヤやゲンジの、役に立ちたい」
少しだけでも、せめて、気が付いた範囲においてくらいは。そんな少年に、
「そんなこと、別に考えなくていいのじゃよ」
心から穏やかに、公家は即答で微笑んでいたのだった。
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