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 その妖精は、少年の知った者。そして死んだと口にした少年の言葉は、決して嘘ではなかった。 「私とアナタは違います。依童(よりわら)として造られた人形に宿ることと、自ら以外の他者の体を乗っ取ることを、同じにしてもらっては困ります」 「…………」  少年に対峙する気高き「力」は、呪われた生を得た少年とは比べるべくもない。純粋な系統の旧き「力」と主張しているようだった。 「系統的には、私に近い気はしなくもありませんが。それでも随分、中途半端な『力』であるようですね、アナタは」 「……知らないよ。オレはただ、気が付けばここにいただけだ」  そうですか。と護衛は、その記憶喪失の少年――  自身が何者かはわからずとも、妖精の体を奪った自覚はある簒奪者に、冷たい視線を向けていた。 「アナタが何者であれ、『精妖刃』の躰を使うのであれば、彼の役目をはたして下さい」 「アイツの役目?」 「私の用件はそれだけです。私は好きで、『レスト』の護衛をしているわけではありません」  冷たい目線のままながら、拗ねるような声で言っている護衛。それが本意だと悟った少年は、思わず毒気を抜かれていた。 「――ごめん。それはちょっと、オレもやりたくない」  今日はやたらに、護衛の依頼づいてるな、と目を丸くする。歓迎できないモテ期の到来のようだった。 「そもそも……この妖精は死んでたせいか、コイツにもしも何か『力』があっても、オレには全然使えてなくて――」 「……」  精霊の使えない精霊族。養父母の養女である妹分に、日頃からそうからかわれ続けていた少年の実情はそれだ。 「オレは多分、丸腰の人間くらいにしか勝てないよ。それって護衛として、そもそも成り立つのかな?」  情けない現状ながら、金色の髪で紫の目の少年は、剣を使った状態でようやく、体術がメインの人間の相手ができるくらいだった。 「……今、何と?」  相手が武器を持っていれば、苦戦した上で引き分けるかどうか。その上、相手が千族の血を持つ者であれば、最早敵うべくもない。項垂れる少年に、護衛はまさに絶句したようだった。 「剣もずっと、誰かに習い続けているけど……未だに、相手は観えてるのに、体が全然動かないんだ」  攻撃が何処から、どう来るかだけでなく、相手の弱点や隙までもいつも大体わかっている。それでも言うことをきかない体ではどうしようもない。まさに壁にぶつかっていた少年だった。
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