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「弱小だとは……思ってはいましたが」
まさかそこまでとは、と。護衛は大きく衝撃を受けたらしい。
「それではあの時の殺意は……何だったのです?」
「銀色」になりかけた少年にあったはずの、確かな脅威。ただ怪訝な顔をしている。
「……じゃあ、あんたは……」
その純粋に驚いている表情に、少年は警戒心の出処を思い直した。
「オレを殺す気は……今はない?」
「誰がですか。ヒトを何だと思っているのですか」
そっか、と。あの時「銀色」が現れた理由を改めて考え、大きく息をついた少年だった。
護衛をするには弱小過ぎる少年。誰かの体を乗っ取って生きる存在に、近いようで遠い生きた人形は、改めて冷たい目を向ける。
「アナタの正体は。アナタは誰にも、明かす気はないのですか」
「……」
「『精妖刃』の行方を気にする者もレストにはいます。彼が死んだというなら、何故それを明らかにしないのです?」
鋭い切れ長の目で実に整った顔立ちの人形は、内なる「力」の気高さを見事に表している。まっすぐな青い眼光に少年は肩を竦めるしかできず……ただ人形は不服そうに言った。
「アナタはずっと……レストから逃げ回る気ですか」
弱小なのは、躰だけではない。在り方そのものであると――
卑小な相手には興味を失くしたとばかりに、人形の護衛は、夜の闇へと薄青い姿を消していった。
「…………」
ひとまず、騒ぎになることはなく事態を終えられた。
目下一番の脅威と考えていた人形が、現時点では害意がないこともわかった。
少年にとっては様々な事が丸く収まった、あっという間の夜の出来事だった。
「……弱いって。ラク、なんだな………」
そのまま屋根に座り込んだ少年は、頭上の暗い空と月を見上げ、鳩尾の辺りをぎゅっと掴んだ。
「できないことなら。……やらないでも、良かったんだ」
これまでの少年には、忌避すべきでしかなかった穏健な方向性。その流れが今まさに、絶え間ない吐き気を少年に催させた。
公家や剣の師に、迷惑をかけない形で物事を運べた理由。それはまず、戦う道を選べない「金色」の弱小さだと、現実を悟るしかない。
そんな金色の髪の少年の諦観に反発するかのように、黒い柄の青銀の剣は、鞘の中でも仄かに青白い光を放っていた。
――本当はそこまで、お主に余裕はないはずじゃよ。
そしてその夜に初めて、これ以後に何度となく少年を襲う青白い剣の夢が、その片鱗を表し始める。
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