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「ユーオン、『ディアルス』のこと知ってるの?」
「ジパングに引きこもってたんじゃなかったのか?」
「え……えーっと……」
その視線にたじろぎながら、少年はここ半年内の記憶を辿る。
「今はいないけど……オレを拾ってくれた奴らが、そこの国の戸籍をもらってて。代わりに、王様とかの依頼で、ちょくちょく『ディアルス』には顔を出してたから」
それに何度か、一緒についていった、と身元不明で記憶喪失ながらも語る。
「それは――つまり、ユーオン君の保護者になるんじゃないの?」
これまで自身のことをほとんど語らず、だから保護観察中だった少年。聡明な黒髪の子供は不思議そうにする。
「そうだけど。フルネームも覚えてないし、何処に行ったか、いつ帰るのかもわからないから」
だから当てにはしていない。向こうが帰ったら迎えにくることはあるかもしれない、と実状を伝える。子供陣一同、オイオイ、と呆れ顔をしたのだった。
そんな中で、師の娘は、いつも以上に好奇心に満ちた目をしていた。
「ねぇねぇ。そのディアルスってどんな所なの?」
家具がほとんど置いておらず、子供会にはちょうど良い広さの少年の居室で、そのままの流れで尋ねてきた。
「地図で見れば、西の大陸の北東端にある、ジパングから実は結構近い国だよね」
「そーなんだ? さすが、悠夜君だねー」
「ユオン達はどうやって行ってたんだ? 船でも出てるのか?」
すっかり話題は、レストからディアルスのことへと移った。
誤魔化せて丁度良いとばかりに、少年はその突発の子供会で、その千族の国の知る限りのことを話し始めたのだった。
炎と風の国。ディアルスを語る際には、その枕詞は切っても切れない、国の特徴を表す言葉だった。
「かなり北にある国なのに、年中暖かい気候らしくて。近くの北の島まで、その影響で、寒過ぎなくなってるらしい」
「それは不思議だね。海底火山の暖流でもあるの?」
「よくはわからないけど……王家が守る宝が『炎』と『風』の二つの珠玉とかで。それが祭壇にある限り、ずっと暖かい国に保てるって言ってた」
本来はその緯度からも、温暖では有り得ない凍土の大地だ。しかし千年以上前から、そうした自然の「力」の恵みを糧に、豊かな国に発展してきたという。
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