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「いいなー。いつか僕も行ってみたいなぁ」  あまりジパングらしからぬ風貌の帽子の友人ですら、異国というのは、一つの憧れと観えた。師の娘も公家の子供達も、どちらも頷いている。 「ディアルスくらいなら、行こうと思えば、いつでも行けるよ」  何ならいつか、連れていこうか、と無責任な約束に男の子陣がはしゃぐ。 「…………」  赤い髪の娘はやはり、何処か不思議そうにしている。青みのある黒い目をまっすぐに、少年の方へと向けていたのだった。  そして、今日はひとまず芸人一座の見物は無しということで、帽子の友人が帰り、公家の子供二人も少年の居室を出た後のことだった。 「――? ツグミ?」  じーっと、部屋に残っていた娘が、両腕を組んで不思議そうに少年を見つめている。少年も不思議そうな目を惜しみなく返す。 「何か他に……聞きたいこと、あるのか?」 「…………」  ディアルスの話を、始終熱心に聞いていた娘。尋ねた少年に、ううん、と、軽く首を振る。  赤い髪の娘は、珍しく少し躊躇いがちだった。少年を見つつも、僅かに伏し目で話し始めた。 「何か、ユーオンが凄く……懐かしそうな顔をしてるから」 「――え?」  ディアルスという国の話も、大いに興味はあるようだったが。  それを話している時の、少年の雰囲気が、娘にとっては新鮮だったらしい。 「まるで、ディアルスに住んでたヒトみたいな……そんな風に感じるくらい、嬉しそうに話してた」 「……?」  これまでになく、多くのことを話した少年に、そもそも娘は違和感があったらしかった。 「ユーオンはいつも、何処まで意識して話さないのか――正直よくわからなかったけど」 「…………」 「さっきの見てたら、何となく……何を話すか、話したいのか、自分でも本当にわかってないのかなって。そう思っちゃった」  記憶喪失――その現在の状態もさることながら。  根本的にこの少年は、自らが曖昧であることを悟るように。 「もしかしたらユーオン、記憶がなくなる前は、ディアルスのヒトだったんじゃない?」  そう笑う娘に、少年はただ、首を傾げることしかできなかった。
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