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 炎と風の国、ディアルス。その人間の国が、現在のように、温暖な気候と豊かさを得られたのは初めからではなかった。  陽の下の凍土、ディレス。この世界の暦が現在の「宝暦」となったばかりの頃は、資源を求めて近隣と諍いが絶えず、温泉を名物とする寒冷の国がその前身だった。  そして更に。  西の大陸の北東端に、とってつけたような不自然な形の国土。逆正三角形の大国は、旧き「神暦」において、元々はその場所にはなかった。  現在の世界地図では、東の大陸の一部にぽっかりと空いた穴。大陸変動によって海に沈んだとされる聖域の一部。海底遺跡の存在するその地域には、元々、ある逆正三角形の国が存在していた。その逸話は今はもう、伝説にも近い扱いを受ける史実となっていた。  一つの国を、丸ごと外壁で囲んだ小国、古代の移動要塞。砦の国ディレステアという旧き地がかつてはそこにあり――  そしていつしか北西へ飛び立ち、ディレスという国になったことを。  その国が飛び立つ時に、その国のために戦った一人の少年が、海の底に残ったこと。それを最早誰一人、知っているわけもなく――  そう言えば――と。金色の髪の少年は、髪が頻繁に銀色に染まるようになったキッカケを、赤い髪の娘が出ていった後で、ふと思い出していた。 「ディアルスに行ってから、だったような……」  どう見ても千族の、瀕死だった少年を、養父母はまずディアルスに連れていった。千族の行方不明者一覧に、少年の記載がないか確かめに行ったのだ。
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