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寝不足の不調の上に、吐き気は強くなる一方だった。
たまたまタイミングが良く、その日の夕方に、剣の師からある声がかけられていた。
「ユーオン。暇だったら医者行くぞ、医者」
「へ?」
御所中の衛兵をまとめる立場の師は、実に面倒見が良い。少年が御所に来た当初も、「銀色」後にぶっ倒れた少年を連れ、知る人ぞ知る、千族御用達の医者を紹介してくれていた。
「結局あの時、何もしなかったのに?」
「俺の方は、よくわからんから一カ月後、また連れてこいって言われてたんだよ。時間ある時に行く方がいいだろ」
今日、調子悪そうだしな、と。そこまでお見通しらしい師に、はぇ、と少年は声を呑み、黙って頷いたのだった。
そして。約一カ月ぶりに少年を再び診た医者は、ただ一言。
「うむ。やっぱりよくわからん」
医者でありながら煙草をくわえ、不精に伸ばされた肩までの黒い髪。それを適当に括り、黒い服に黒い眼で少年を見る男は、白衣以外はひたすら黒づくめだ。外見だけなら良くて二十代後半としか見えないような、相変わらず若い風貌だった。
目付きも良くはなく、無愛想な医者が突拍子もないことを言う。
「オマエ、本当に生き物か? 体重や身長のみならず、血圧の変動がほぼないどころか、髪や爪の一つも全く伸びてないな」
「へ?」
はてな? と首を傾げる少年を見て、医者は尚更気怠そうにする。
「はっきり言うなら、全然成長してない。元の年齢が十五なら、オマエは永遠の十五歳だろうな」
「なるほど……それで全く、剣が上達しやがらないのか……」
何故か納得している師の横で、少年はうーん、と医者を見上げる。
「それって……解決する方法って、あるのか?」
尋ねながらも、解決すべきとも思えない。何故か笑った医者は、煙草の火を消してにやりと少年を見ていた。
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