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「ユーオンの銀じゃねぇけど、アイツも二重人格的な奴でな。最近はもっぱら『翼槞』ばかり、俺達の前でも出てやがる」
「ヨクル?」
その名は元々、青年から頼まれた公家が命名したものだという。二つの人格は仲良く共存していると言うが、師はややも不安そうに言った。
「アラスは普通にいい奴だけどな。翼槞は一見、アラスと大差ねーけど、必要なら俺達にも剣を向ける、そんな所があってな」
「――は?」
一挙に不審の顔をする少年に、師も苦笑いを見せる。
「ユーオンも気にしてたが、吸血鬼のアイツと俺達は、確かに何かが違うんだろうな。アラスはそこは、俺達に合わせるんだが……翼槞はアラスを優先する、そんなところさ」
「…………」
師がそこで、むしろ心配そうに顔を顰めている理由。
青年のその人格、「翼槞」が頻繁に現れること――それが意味する何かに、悪い予感を隠し切れないといった様子だった。
「じゃあ、ソイツがゲンジ達の敵になったら、どうするんだ?」
ずばりとそこに切り込む容赦なき少年に、これまでで一番師は苦い顔をしたのだった。
「有り得ないって言えねぇのが、アイツの困るところだ」
「……じゃあ何で……そんな奴のこと、信じてるんだ」
その可能性を認めながら、師はあくまで青年への本質的な信頼を崩していない。師の様子にひたすら少年は怪訝な顔をする。
師はそんな少年に、改めて余裕を持った顔で笑った。
「ユーオンと同じさ。結局のところ、アラスも翼槞も、何かを守るために必死なだけだからな」
「……――」
それがたとえ――彼らに仇を成す結果になったとしても、と。
「そっか……それなら……」
その根本を認めている師に、少年は他に何も言えなかった。
「ソイツがもしも敵になったら――……オレが戦うよ」
弱小に呟いただけの声。師にははっきり、聞こえなかったようだった。
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