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――お嬢様に惚れちゃいました! 下さいなんて申しませんから、ジパング滞在の間だけでもお付き合いしたいです! 霖
筆跡の整う直球なメッセージに、娘自身、戸惑いの表情で呟く。
「私なんかよりもっと綺麗で上手いヒト、きっと一杯いると思うんだけど……」
「いや、この一座見る目だけは確かだ間違いない」
びしっと、まっとうな謙虚さを持った娘に、素早過ぎる親バカ反応をする父。
「ツグミは……レストに少しでも、興味あるのか?」
ようやく衝撃を消化してきた少年が口を開く。少年としては近づきたくない一座に、困惑の思いがとにかく強かった。
「……楽しそうだな、とは、ちょっと思うけど」
まっすぐ見つめる少年から目を逸らし、おそらく照れ隠しで不服気な赤い髪の娘だった。
強く動揺している師が、仕切り直しに咳払いをして、げほっと本気で咳込んでいた。
「この一座のこと、ユーオンは知ってるのか……?」
「……知り合いの知り合い、くらいには」
「そうか……ユーオンから見たらどうなんだ、こいつらは、実際」
硬過ぎる目つきと、目から上が暗黒に染まった顔。怯えを隠さず、座ったまま少年は後ずさる。
「いい奴らだけど……危ないと思う。ツグミにはぴったりだと思うけど、オレもどうかと思う……」
そんな矛盾した台詞だけ、辛うじて口にして返した。
勘の良さや、現状把握の力は極めて優れると、少年の特性を師は知っている。うんうん、と納得したように、実際はごごごと機械のように硬く頷いていた。
逆に、少し緊張の緩んだ表情で娘は少年の方を向く。
「合ってると思う? 私に、こういうのって」
「うん。それはもう、まず間違いないと思う」
全く正直な気持ちを、飾ることなく口にする。そっか、と僅かに微笑んだ娘を前に、
「ユーオンてめえ。どっちの味方だこのヤロウ」
師はその首根っこをあっさりと掴み、そのまま立ち上がった。
「その一座の所まで案内しやがれ。ヒトの大事な娘を誑かすふてぇヤロウは――俺が直接引導を渡してやる」
「ちょっと――父上……」
まるで猫のように軽々と少年を持ち上げた父は、最早娘の声は聞こえていないかのように前だけを見ていた。
「……えっと。……行ってきます、ツグミ」
「バカ、私も行くわよ!」
少年を肩に担ぎ直し、無言で先に進む父の背で、困ったように少年は笑うしかない。ごくまっとうな感覚を持った娘は、父の暴走を止めるべく後に続くのだった。
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