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 基本的に。この一座とは、関わりたくなかったのに……と暗い面持ちの少年の前で、少年達を出迎えた一座の花形は、心からまず嬉しげに笑った。 「うわぁ、来てくれたんだ、イーレンちゃんのそっくりさんと、ジパングらぶりーな小鳥ちゃん!」  花形が二人存在しているこの芸人一座は、外回りと内回りと称する、二つの見世物を中心にしている。軽業を中心とした青空下の舞台と、きちんとした場を借りる本格的な芝居舞台を主に手掛けるらしい。  現在、赤い髪の娘に声をかけたもう一人の花形は外回り中であると、内回りが中心らしい幼げな花形が言い、妙な呼称に戸惑う娘に抱き着いていた。 「って――……この名刺の奴も、今はいないのか?」  幼げな花形のあまりの毒気無さに、師は勢いを削がれたらしい。少年を下ろし、頭を抱えながら尋ねる。 「マネージャーのスカイちゃんはもうすぐ帰ってくると思うよぅ。霖は夜まで予定があるけど、良かったら入って、入ってぇ♪」  一座が滞在している川辺のテントに、幼げな花形は躊躇なく、そこで待つようにと一行を誘う。  突然現れた、不穏さしかない顔付きのガタイのいい侍に、あくまで歓迎の眼差しを向ける花形の笑顔。少年と剣の師は、互いに目を丸くしながら顔を見合わせるのだった。 「……」  じろりと川辺で、少年を見ていた護衛の人形が、師の仲間たる吸血鬼に瓜二つなことに気付く余裕もなく、そこで誘いを受けた剣の師だった。  花形二人の専用楽屋であるという、舞台衣装と装身具が沢山置かれたテント内で。師の娘に声をかけた外回りの花形と、この一座のマネージャーを待つ間、落ち着かない体で少年と師は地面の敷物に座っていた。 「小鳥ちゃんはどんなお洋服が好きぃ? 何か着てみない?」 「ううん……あまり着物以外、着たことがなくて」 「えぇー。何でも似合いそうなのに、もったいなぁい♪」  内回り中心という幼げな花形は、ひたすら赤い髪の娘が気になるようだった。  そんな一方的に賑やかな少女陣を横目に、剣の師は少年に、こそこそと現状の確認をする。 「……あの子は何なんだ、ユーオン」 「えっと……この一座の花形の一人ってことしか、オレは……」  困ったような顔で、それだけ少年が返した――その時だった。
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