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「ルンは、我がレストのロリっこ担当。広い範囲のお兄さんの客寄せに、一役買ってもらっているのです」
すっ、と。テントの覆いを開けて、中に入ってきた黒い人影。
「老若男女、いずれの世代にも受け入れてもらうことを目指した我がレストでは、小鳥のお嬢様のような正統派かつ不滅の、ツンデレ素材を必要としているのです」
にこにこと、その二十代前半にしか見えない黒っぽい女が、流暢に口上を述べながら近付いてくる。長い黒髪を高い位置で一つに括り、黒の上衣と手袋を着けて、腰元に長剣を下げて場に現れていた。
「……は?」
「???」
一見大人しげな黒い女が、見た目によらない軽い声色で言った業界用語の数々。まずあまり理解できなかった師と少年は、ただ呆気にとられる。
「どうも、お初にお目にかかります。レスト千族マネージャー、スカイ・S・レーテと申します」
へ。と更に言葉を失う少年達の横で、現れたマネージャーへと幼げな花形が振り返った。
「千族で専属! スカイちゃん、相変わらずうまいねぇ♪」
ともすればただの親父ギャグに、本気で喜んでいる風の幼げな花形を、黒い女はよしよしと撫で回している。
「うちのレストは、私のような行き場なき千族保護も兼ねた、旅芸人一座なのですよ。お宅のお嬢様には当然ながら、保護は必要ないので、純粋にスカウトのお話をしたいわけですが」
「……は?」
マネージャーというイメージからは大きく離れた、清楚風なまっすぐの黒髪の女。黒い衣の上に着ける、膝までのつなぎ服が揺れて、口調と身振りは営業そのものの軽妙な女に師が呆気にとられている。
横で少年は、何故か唐突に激しい悪寒に襲われた。その黒い女の全身像に、強い吐き気と眩暈を覚え、思わず胸をぐっと掴んだ。
そのため師と同じように、黒い女に咄嗟に反応できなかった。
黙り込んでしまった少年と師の前で、黒い女は視線が合うように改めて正座し、師にまずぺこりと頭を下げていた。
「ま、千族と言ってもあまりに遠縁の私は弱小そのものでして。どうぞご警戒なきよう、お願い致します」
「……あぁ?」
そこでやっと、呆れたような声を師が絞り出す。
「ヒトの大事な一人娘に、突然妙な話を持ちかけておいて――警戒するなと言う方がおかしいだろ」
ふむふむ、と黒い女は、両腕を組んで何度も頷く。
「ご尤もです。私が言うのも何ですが、信用しろという方が、無理のある話だと重々思います」
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