開幕

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開幕

 その来襲者は、青銀の髪の吸血鬼。この世界の宝の一つ、「黒の宝珠」の守護者だった。  青白い月明かりを背に、女性のように端整な蒼の目が鋭く魔性をたたえ、迎え撃つ少年に妖しく微笑みかける。 「オマエは……オレを殺したい?」  銀色の髪の少年は何の感傷も浮かべず、冷たい青の双眸で敵を見返す。  その少年がヒト殺しの才能を持ち、多くの命を奪った過去を持つこと。それを最早誰一人、少年自身すら覚えていなくとも、血まみれの定めは変わらないと示すように断言する。 「アンタが殺すべき相手なら――何をしてでも、アンタを殺す」  同じ「死神」を銘する彼らは、まるで月光とその影のように。  互いの昏き道行きを前に、破綻者の願いを重い翼として背負う。  青年の傍らには、銀色の髪で赤い目の、世にも美しい吸血鬼の姫。  少年の背後には茜色(あかねいろ)の髪をひらりと舞わす、毅然とした少女が不意に降り立つ。  少年の仲間、水華(みずか)と呼ばれる茜色の髪の少女は、先端に三日月を誂えた二本の短い杖を持ち直す。呆れたように青銀の吸血鬼に対峙した。 「アンタ、魔王とかいう奴の方に寝返ったんだって?」  その問いに微笑する目前の相手は、最早確実に敵であること。それがわかっただけで、少年が袴に差す剣を抜くには十分な理由だった。  それはおそらく、少年の妹という存在のために。 ――ラピスが望むなら、それが――……俺の、役目だ。  戦わなければいけない。何があっても、どれだけ己を削ることになっても――  その時が再来し、殺さずに過ごせる時間はもう終わったのだと。 update:2016.1.15 966039d6-9ef2-443e-a726-70688d9521de
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