夕暮れ色に溶けていく

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  駅前の小さな広場。 バス停と広がるロータリー、小さな売店と立ち食いそば屋。道向こうにはファーストフードとコーヒーショップ。 変わらない風景だ。 同じ市内に居ながら、全く逆方向に住んでいた私たちの待ち合わせ場所はいつもここだった。 駅についてから学生でぎゅうぎゅう詰めのバスに乗るより、一本早めの電車に乗って、学校までのんびり歩く。 そんな私のスタイルに合わせてくれたのは彼の方だった。 彼はいつもここでバスを降りた。 駅で折り返すバスの便が多かったのも事実だけど、通学時間帯の便は駅からもっと先まで行く。 そのまま乗っていれば学校前まで行けるのに、彼は必ず降りた。 『バスは息苦しいんだよ』 そんな風に彼は言ったけど、私と歩く時間を大事にしてくれていたのだと私は知っている。 いつも私の方が先に駅に着くから、バス停が見えるこのベンチで彼を待つ。 バスから気だるそうに降り、スポーツバッグを肩に引っ掻けて、彼は私の座るベンチに向かってくる。 『おはよ』 短い挨拶を交わし、どちらからともなく学校に向けて歩き始める……。 それが私たちの日常だった。
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