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“かた…”“かちゃかちゃ…”
「ん…んん…」
何かの音が耳に届き、三斉流先生は目を一度きつく瞑ってからゆっくり開いていく。
「あ、タケ…気がついた?」
「ん?は!?」
目を開いた三斉流先生の顔を覗きこんだのは、三斉流先生の恋人(ただし微妙)である政府特殊査察部署・匿命係の包茎男(つつみ くきお)だ。
よく見ると、なぜか割烹着を着ている。
「ク…クッキー?なぜ君が?」
「あぁ……えっと…あのね……僕が…その……君に会いたがっていたら、Qさんが『任せておけ』って」
指を絡ませモジモジと動かす包の話を聞き、ハッとして三斉流先生は跳ね起きた。
「こ…ここは…どこだ?」
自分が寝ているのがベッドであること、すぐそばに簡易システムキッチンやローテーブルがあることを見て、三斉流先生は目を丸くする。
「Qさんが用意してくれた…部屋……かな?」
「確かクッキーの上司で、Qvan Krake氏だったかな?コードネームはQ。それで…何故上司が私にこのような真似を?」
包は『それは……』と割烹着の裾を握る。
「この間の査察から帰ってからも、僕の心は高鳴りっぱなし。運動會まで約半年……このままじゃ繊細な心臓がもたないと、Qさんが自分の持ってる“この部屋”を貸してくれたんだよ」
「この部屋を?」
「『ゆっくり楽しんでおいで』って……タケを迎えにも行ってくれたんだけど、クロロホルムなんて使ってないはずなのに、なんで気を失って?」
三斉流先生の記憶が蘇る。
「あの強烈な臭いは……」
「臭い?ああ、たぶんQさんの“腐臭”かもしれない。Qさんは腐男子だから、妄想モード中は何か出てるんだよ。人によって栗の花のように感じ方が違うようなんだ。僕は気にならないしね」
ニッコリ微笑む包の笑顔は、無邪気に腹黒い企みを含んでいるようで、昔と変わらない。
「クッキーは昔とちっとも変わらないな……」
「そう?」
「安心した。私も昔に戻れる」
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