あらすじ

2/2
前へ
/2ページ
次へ
幸雄はCAPという代行業者で副業をしている。CAPでの仕事二九歳という年齢から、もっぱら披露宴への代理出席だ。新郎の同僚として名前や年齢を偽り、数合わせのために出席するというもの。初老の茂とも馬が合い、幸雄はこのアルバイトを一年も続けていた。 ある日、茂と団欒していると、彼がおもむろに卒業アルバムを取り出す。もう何年も前のものである茂のアルバムを眺めながら、幸雄はここ数年帰省していないことを思い出す。両親と疎遠なわけでもなく、辛い思い出があるわけでもない。しかし逆に楽しい思い出もなかった。高校一年の夏に怪我をしてから、何をするでもなく漫然とした時間を過ごしていた。そのため思い出という思い出もなく、とりわけ故郷へ帰省しようという気が起こらなかったのだ。 代わり映えのしない人生を送ることに幸雄は満足していた。そのうえで、ほんの少しの刺激を求めるためだけに代行業を続けた。そんなCAPでの仕事で、まさかの事態に見舞われる。新婦の兄役だと聞かされていた現場に向かい、新郎役を演じることになったのだ。想定外の展開に困惑しつつも、依頼主である新婦、優子の気持ちを思い、幸雄は新郎役を引き受ける。 しかし披露宴の最中、幸雄は出席者の中に見知った顔を見つけてしまう。これでは偽者であることが露見してしまう。幸雄はどうにか気づかれず披露宴が終了することを願った。 意外にも終盤まで大過なくやり過ごすことができた幸雄。ところが最後に優子がサプライズを持ち出す。彼女が「あの日の約束を覚えていますか?」と問うてくる。その優子の顔にかつての面影を見つけた幸雄は、それが一〇年前に別れた恋人であることに気づく。見れば披露宴への出席者も一部だけでなく、全てが地元の友人だ。一〇年ぶりの彼らに苦笑しつつも、幸雄は優子との約束を思い出す。二五歳を過ぎても互いに一人であったなら、もう一度一緒になろうという約束を。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加