リケジョの掟

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地方大学の学部卒で企業の研究室に就職、リストラや経費削減の嵐をくぐり抜けた末、この研究所に落ち着いた方子にとっては研究所の大看板であるプロジェクトへの参加自体、大抜擢だ。 「女性にも第一線のキャリアを、なんて私達の頃から言われてるけど…時代は違うのかしらねえ」 方子が溜め息混じりに話しかけた相手は同性のリーダー、深姫…ではなくたまたま隣にいた男性研究員だ。 「もしかして“お姫様のランチ会”のことですか」 「ほら、男性はすぐそういう呼び方で揶揄するんだから」 方子は「男性の三倍頑張らなければ一人前と見てもらえない」という師の教えを忠実に守り、未婚のまま仕事に打ち込んで来た。 「そんなの時代遅れ」とばかりに流行に敏感で部下や後輩女子への気配りも忘れず、軽やかに仕事と家庭生活を両立しマスコミ受けもいい女性リーダー。若い世代の取り巻きが増えるのは当然だろう。 が、同じ部署だからこそ実像に気づく事もあるのだ。結婚生活が実際は双方の実家がかり…というのはまだいいにしても。 赴任した最初の日、方子は、彼女のネイルと人気ブランドの結婚指輪をそれとなく注意した。実験中は手袋着用とはいえ、試薬や検体に影響する物を平然と付けてるのはどうなのかと。超低温の液体窒素を扱う時もある。金属ごと皮膚に触れたら大惨事だ。 「そんな基本的なことくらい、私も知っています。今日は挨拶回りだけだと聞いていましたので」 たかだか学部卒の嫉妬からくる嫌み、とばかりに彼女は方子の言葉を微笑みとともに一蹴した。
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