第1章

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 タルドレムは文月を部屋まで送り、また夕食の時にねと言い残し去っていった。  え?夕食一緒は決定なの?  困るなーと思ったけれど今更拒否はできない感じがする。  外から戻ってみると部屋の暖かさが身にしみた。  はぁ~。  冷たくなっていた頬が温かみを感じ始めた頃に文月が話し始める。 「思ったんだけど……」 「はい、なんでしょうか?」 「僕とタルドレム王子の関係って、弓矢の人たちにはどう見えただろう?」 「とても良いご関係に見えたと思いますよ」 「む……」 「タルドレム王子の弓は狙いは正確ですが今ひとつ力強さに欠けるという評価を耳にしたことがあります。今回フミツキ様はタルドレム王子にとって無くてはならない、待ち望まれた隣に立つ女性だとアピールできたと思います」  うぬー!しまった。自ら外堀を埋めたような気がする。王子の婚約者は他にも適任がいるのではないかという疑問を持って欲しかったのに。  これではいけない、これからはもうちょっと慎重に行動するようにしよう。  文月は内心で頭を抱えながらも今後は関係方向を微調整しようと心に決めた。  ぐっと胸の前で拳を握る仕草が見ようによっては進展を喜ぶガッツポーズに見える。  リグロルも真似をしてぐっと同じポーズをとった。 「成功ですね」 「違います」 「あら?こうですか?こうですか?」  わざとか本気か分からないが、ポーズが違うと言われたと思いリグロルがぐっ、ぐっと繰り返した。  おそらくわざと。うむ、味方はおらぬと心得た。  何度かポーズを決めたリグロルは満足したようだ。 「さて、フミツキ様。夕食の前に湯浴みをいたしましょう」 「ゆあみ?」 「お風呂です」 「んー……、あー……、…いいよ。特に汗をかくような運動もしてないし」 「どうぞ、お入りください。湯上りの乙女の色香は龍神も惑わすと言われています」 「僕は惑わしませんよ?」 「タルドレム王子もイチコロです」 「お風呂あがりに会いませんからね?」 「では参りましょう」 「あれあれーリグロルさん」 「はい、なんでしょうか?」 「僕の話聞いてます?」 「勿論です」 「……」 「……」 「……お風呂には入らないですよ?」 「ではタルドレム王子とご一緒に入れるように手配します」 「なぜっ?!やめて!」 「では参りましょう」 「入りたくないなぁ」 「ではタルド……」
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