第1章

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 恥ずかしくてビックリして文月はリグロルに大人しく従った。  起き上がるときに自分の頬に頬よりも柔らかいものが、ふんわり触れてしまったのは偶然です。  忘れがたい感触にふらふらしながらも文月はリグロルに支えられて湯船からあがる。  さらさらとお湯があふれた。 「フミツキ様、こちらに横になられてください」  リグロルはそう言って文月を浴室の真ん中あたりに置かれていた黒い石でできたベットのような台座に誘導する。  そのまま文月を台座の上に寝かせる。台座は石でできていたが絶妙なラインで磨かれており文月の体に負荷をかけることなく驚くほどぴったりと支えた。  リグロルは文月の頭の方に回り髪留めを外す。少し湿った黒い髪が軽くはじけるように広がった。 「まずはお髪を流しますね」  リグロルは文月の髪にお湯をかけ、シャンプーのようなものを丁寧に塗ってゆく。横になっている文月の体が冷えないように時折お湯を体にかけながら髪を洗う。  他人に髪の手入れをされると、こんなに気持ちいいんだ……。  文月は再びぼんやりとしはじめてしまった。 「リグロル……」 「はい」 「……眠くなってきた……」 「そのままお休みになっても構いませんよ。お髪とお体を洗い終わったら、声を掛けさせて頂きますから」  うん……。  最後の返事はちゃんとしただろうか?  お湯が体にかけられる度にちょっとだけ意識が上がるものの、結局文月はぼんやりとした世界に沈んでゆく。  浴室内には壷から溢れるお湯の音が広がっている。  リグロルは丁寧に洗った髪を軽くねじって水気を切り、もう一度文月の体にゆっくりとお湯をかける。全裸で安心しきっている文月を見てリグロルは信頼されている喜びに満たされた。文月の可愛らしい寝顔を見ているとリグロルの頬も自然と緩み、微笑が無意識に浮かんでくる。  いつまでも見つめていたい衝動を押さえ込み、リグロルは文月の体を洗い始めた。  柔らかい布で文月のおでこから拭き始める。顔は特に優しく念入りにリグロルは拭いてゆく。  文月の呼吸はもう眠っている人間のものだが、リグロルがあごの下を拭くと自分で少しあごを上げるので完全に寝入っているわけではないらしい。  耳の後ろから首筋、肩、腕を少し持ち上げ指先まで丹念に拭いてゆく。戻ってわきの下を拭いたら文月が目を閉じたままくすくす笑い、裸体をねじる。
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