第4章

15/67
前へ
/233ページ
次へ
「おーい、メシだぞ」 夕飯の支度ができて、部屋に戻ってみると巧と入江がなにやらしゃべっていた。 (珍しいな、巧があんなに年上になつくなんて) 反抗期真っ盛りの弟は、俺にたいしてはもちろん、他の家族や先生にだって無愛想で可愛いげがない。 今入江に見せている微笑みだって近頃めっきり見なくなったものだった。 「おい、メシ」 「あ、すまない。ありがとう」 二度目の声かけでやっと俺に気づいた入江が、すまなさそうにしながら立ち上がる。 「空さん、またあとで話しよ」 「ああ」 いつの間にか変わっている巧の入江の呼び方にイラッとする。 (弟に嫉妬って、どんなけ余裕ねーんだ俺は…) 先にでて行った巧のあとに、入江が部屋を出ようとする。 それをドアを閉めて通せんぼ。 入江はキョトンとした表情で、なんで俺がそんなことをしたのか分からないといった様子だった。 まあ、わかんねぇよな。俺のこんな醜い嫉妬心なんて。 「何の話してたんだよ」 「え?ああ、まあ色々だが」 そんな曖昧な返事にイライラがつのる。 「色々って?」 そう聞くと、入江が少し困った表情をした。 「勉強のこと。高校ではどんな勉強をするのかって。 彼、今年受験なんだな。」 「そんだけ?」 それだけで、入江は困った表情を浮かべるのだろうか。 「秘密の話を、した。だから竜平には言えないんだ」 約束したから、そう言葉を紡いだその唇にかぶりつきたくなる。 醜い嫉妬心と、野性的な何かと。そんなものがごちゃごちゃになって、今俺の体を支配している。 それをぶつけてしまいたい。 (でも、堪えるって決めたんだろ? ) 自分にそういい聞かせて、この感情を抑える。 大きく息を吐き出して、背中にあるドアを開けた。 「…わり。しょーもねーこと聞いた。 気にすんな」 「?ああ。分かった」 俺の前を横切り、入江は部屋を出た。 居間の方にいくように促して、俺はまた部屋の中へ。 ドアの前でしゃがんで顔を両手で覆う。 今ならわかる。 榎本が時折見せるあの切なそうな顔、 入江 海が見せた、あのにらんだ顔、 あの意味が、今ならわかる。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加