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「まーこーとー!!てめぇ俺が作った神聖なオムライスに何してくれてんだっ!」
恐る恐る、といった感じで俺を見上げる信の目には大粒の涙がもう溢れそうになっていた。
「ご、ごべん"な"ざいっ」
俺の顔と、真っ赤になったオムライスを交互にやる視線からは戸惑いがありありと伝わってきて、信のやったことが故意ではないのだと分かる。
「まあ、わざとじゃねーなら許すけどよ」
そういってやるけれど、一度壊れた信の涙腺はそうすぐには回復しない。
ズッズッと鼻水を吸いながら、必死に涙を止めようと試みているようだが、まだ幼い柔らかな頬をいくつもの雫が滑り落ちてゆく。
自然と俺の口からため息が漏れる。
信をあやそうと、その頭に手のひらをのせようとした、その時だった。
「オムライスに、何を書いてくれるつもりだったの?」
信の顔を覗き込むようにして、入江が問いかけた。
その声と表情は恐ろしく穏やかで、一瞬見とれてしまう。
信の目が、少し驚きに見開かれたあと、
少しうつむきながらも「レッド」と答えた。
「レッド?なにか戦闘ヒーローモノかな?」
詳しく知らないんだけど、教えて?
そう言って入江が微笑むと、信は頬を高揚させながら、自分のお気に入りのヒーローについて語り始めた。
気づけば信の涙は止まっている。
泣き痕が頬に残っているだけだった。
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