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「別に。君こそ、なんでこんなところにいるの?」
「俺は、まあ……散歩?」
チャ、
右隣のブランコに腰掛ける気配がした。
まもなく規則的な金属音の音が響く。
油の足りていないその音は、先ほど自分のたてた音とはまた間隔が違って、長い。
ブランコをこぐ岸本竜平の姿が、視界の隅に、ちらついた。
「俺、お前のこと嫌いだ。」
なんの戸惑いもなく、そんな言葉が口から出た。
右に揺れているブランコは、一瞬戸惑ったようにその動作を止め、再び動き出した。
「嫌い」。取り繕ったりもせず、自分の感情だけのシンプルな言葉。そんな言葉が出てきたことに、少なからず驚いているのは自分だ。
それでも口は、喉は、言葉を送り出すことを止めない。
塞き止めていた何かが溢れだしたかのように、どんどん自分から出てくる。
「君はずるいよ。俺が今までどまどって、一歩も踏み出せなかったところにズカズカ入っていってさ。図々しいよ」
視線は、ずっとブランコの前の低い柵を見ていた。その柵の1つの錆をにひたすら視線を注ぎながら、意識は不思議なとこにあった。
横のブランコでもない、自分が言っている言葉の内容でもない。
強いて言えば、岸本としゃべっている自分自身とはまた別のところ。第三者のような視線で、この状況を見ていた。
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