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ブランコから立ち上がる。
そのまま移動して、岸本と対峙するように柵に腰かけた。
ここにきて初めて、岸本と視線があう。
白目がちのつり上がった目。いつもは機嫌悪に細めるか、挑発するように睨んでくるその目。それが今は、不思議さと戸惑いで微かに揺れていた。
「お前、今日らしくねーな。
いつものキラキラ王子じゃねー感じ」
「そう?」
薄く笑って、意識して顔を作った。声色に余裕を含ませてそう返すと、岸本はますます不思議そうな顔をした。
「…もう、もどった?いつもの榎本っぽくなってる。」
「なら、よかったよ」
もう迷いは消えたから。俺は俺らしくいく。
一日では見慣れない頭に少し目をやって、それから再び視線を合わせた。
とびっきり優雅に笑ってやる。岸本がたじろいだ。
「君に、空は渡さないよ」
その一言を放つだけで、向かってくる視線は鋭いものとなる。
その視線を受けながら、あえて飄々と、涼しげに言葉をつなぐ。
「確かに今、一歩を踏み込んでいるのは君だよ。それは認める。
でもね、僕には僕なりのやり方があるんだ。僕は僕らしく、空をものにしてみせる。」
「…お前も入江のこと、好きだって認めるんだな」
「あれ?……そうか言ってなかったね。
俺は空のことが好き。まっすぐで、飾り気のないきれいな所が、とても好きなんだ」
「好き」と言葉に出すだけで、心のなかに温かい穏やかなものが広がった。
俺、本当に空に恋してるんだ。
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