第4章

30/67
前へ
/233ページ
次へ
ブランコから立ち上がる。 そのまま移動して、岸本と対峙するように柵に腰かけた。 ここにきて初めて、岸本と視線があう。 白目がちのつり上がった目。いつもは機嫌悪に細めるか、挑発するように睨んでくるその目。それが今は、不思議さと戸惑いで微かに揺れていた。 「お前、今日らしくねーな。 いつものキラキラ王子じゃねー感じ」 「そう?」 薄く笑って、意識して顔を作った。声色に余裕を含ませてそう返すと、岸本はますます不思議そうな顔をした。 「…もう、もどった?いつもの榎本っぽくなってる。」 「なら、よかったよ」 もう迷いは消えたから。俺は俺らしくいく。 一日では見慣れない頭に少し目をやって、それから再び視線を合わせた。 とびっきり優雅に笑ってやる。岸本がたじろいだ。 「君に、空は渡さないよ」 その一言を放つだけで、向かってくる視線は鋭いものとなる。 その視線を受けながら、あえて飄々と、涼しげに言葉をつなぐ。 「確かに今、一歩を踏み込んでいるのは君だよ。それは認める。 でもね、僕には僕なりのやり方があるんだ。僕は僕らしく、空をものにしてみせる。」 「…お前も入江のこと、好きだって認めるんだな」 「あれ?……そうか言ってなかったね。 俺は空のことが好き。まっすぐで、飾り気のないきれいな所が、とても好きなんだ」 「好き」と言葉に出すだけで、心のなかに温かい穏やかなものが広がった。 俺、本当に空に恋してるんだ。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加