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レストランへと近づくにつれて重くなる足どりとは相反して、徹平のその表情は乏しいながらも楽しそうなのが十分に伝わってくる。
「ほら、早く行くよ?」
徹平は姫香の手を取ると指を絡めて、わざと歩調を早めた。
姫香は戸惑うだろうが、高揚する気持ちは止められない。
この時をずっと待っていたんだ。
このレストランであの女の鼻っ柱をへし折り、アペゼの前であの男のプライドを粉砕したのはいつだったか。
せっかく姫と夫婦という形で来れたんだ。
姫のために小さな小さな復讐を企てても罰は当たらないだろう?
こんなに愉快なコトはない。
レストランに足を踏み入れると『いらっしゃいませ』という声と共にスタッフがこちらへとやって来た。
「予約していた鈴谷です。」
と緩く微笑めば、顔を確認されるなりスタッフの顔色が青く変わった。
どうやらアノ時の事は、忘れられてはいないようだ。
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