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「そうでしょうね。私が何をしたところで、蒼潤君や鶫さん、槶君のことは止められないでしょう」
「……」
「私はただ――貴女に困ってほしいんですよ、猫羽さん」
だからこうして現れるのだ。飾らず真意を観せる女に、
「あなたは……誰……?」
心から不思議で、幼女が首を傾げたその時に。
「――猫羽さん! 大丈夫ですか⁉」
庭で倒れかけた幼女に、必死に呼びかける術師の子供の声で我に返った。
「……あれ」
目をこする幼女を、ひょいっと、縁側に来た紅い少女が抱き上げる。
「……エルフィ、どうしたの?」
強固な結界の内でも起きたその異状。紅い少女の表情が硬い。
「攫われちゃってた。でも……問題ないと思う」
既に相手の真意を感じていた幼女は、あっさりそう返したものの、紅い少女には何か思うところがあるようだった。
「あのヒト……何処にいるかわかる? エルフィ」
にこりと綺麗に微笑み、自らそれを尋ねた紅い人形だった。
翌朝から、魔界の城のリベンジを目論んでいた少年少女達に、その残念な知らせは伝えられた。
「え? 竜牙さんと烙人さん、明日は朝から出かけるの?」
「ごめんなさい。そういうわけで扉の番は、明日はできないわ」
一度目は魔界行きの扉を見張ってくれた紅い少女。作戦会議中の一行にそれだけ言うと、台所を後にしていった。
「それじゃ、誰がこっちに残るかよね……」
「誰か一人はさすがに、見張ってないとまずいな」
結界の強固な家内とはいえ、不意に扉が閉まる何かの事態が、決してないとは言えない。一行は頭を悩ませる。
それなら、と、術師の子供が真っ先に手を上げた。
「体力的には、僕は足手まといになりそうですし。猫羽さんは案内と結界に必要ですし、僕が残って扉を守ります、兄様」
「いいのか? 悠夜」
「悠夜君がいないならいないで、何かちょっと心細いよね」
うんうん、と、赤い髪の娘と幼女が同時に頷く。
「元々、別行動が主体の作戦ですし。僕は猫羽さんからこれを借りて、ここから猫羽さんや槶と連絡をとるようにします」
そう言ってPHSを掲げる相手に、帽子の少年が首を傾げる。
「あれ? 魔界って伝波届くの? 悠夜君」
「本来は届かないけど、このPHSだけは特別だよ、槶」
にこりと笑い、アンテナのないPHSを術師の子供がしまう。
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