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 元々金色の髪の少年と養父と、紫苑の男の雑魚寝部屋だった所に、剣士の少年とその弟、帽子の少年が狭苦しく休む。  赤い髪の娘は、紅い少女と幼女の部屋で一緒に休んだ。翌朝紅い少女が家を出た後で、不思議そうに幼女に尋ねていた。 「竜牙さんとは一緒には寝ないの? 猫羽ちゃん」 「……水火は怖い夢見るの。兄さんもそうだけど」  すっかり寝心地の良い相手を得た幼女は、これまでよりは良い寝起きで目覚める。昨日までの着物とは違う、瑠璃色の髪の娘のお下がりに着替え、慣れ親しんだ寝床を後にする。  赤い髪の娘も、夜の間借りていた異国の寝巻から、元通り動きやすいタイプの着物姿へと戻る。 「それでは――くれぐれも、気を付けて下さいね」  黒い鍵を紅い少女達の部屋の扉に差し、ドアノブを持つ術師の子供が、PHSをもう片方の手に持ちつつ、これから出かける兄達を憂い気に見つめた。 「ごめんね悠夜君、一人でこっちにいてもらうなんて」 「……何かあったら伝話してよ、槶。何とかして駆けつけるようにするからさ」  大丈夫だよー、と笑う帽子の少年に、術師の子供が溜息をつく。  先に扉に入った年長者達に続き、最後に魔界の扉に入る前に、幼女はじっと、術師の子供を無表情に見つめた。 「……? 行かないんですか?」 「……うん。そう言えばわたし……ユウヤに言い忘れてた」  はい? と首を傾げる相手に、改めて微笑む。 「ユウヤ、色々と沢山助けてくれたのに。まだありがとうって言ってなかった、わたし」 「……そんな、もう帰って来ないみたいな不吉な台詞、ここで口にしないで下さい」  苦労性なのか、術師の子供が更にため息をつく。幼女は最早ぬいぐるみも持たず、身軽な両手で後ろ手を組み、精一杯の感謝で笑った。 「ここから先は……兄様達と貴女と、ラピさんの問題ですし」 「うん。そうだよね」 「大体、貴女とは三元中継になるんですから、今からしっかり喋って下さいよ」  PHSを持たされた術師の子供、ぬいぐるみを持たされたその兄。全ての情報の集積地点となるはずの幼女に、心せよと難しい顔付きの術師の子供。  その不安に応えるように、術師の子供が手にしたPHSから、 「大丈夫。多分わたしに何かあっても、ここでは喋れるよ」  まるで腹話術のように、口を閉じて声を届けた、PHSに宿る悪魔を使う幼女だった。
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