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「猫羽さん⁉ 大丈夫ですか⁉」 「……――あ」  アンテナ以上に強い感度で訴えかける声に、幼女はそこでやっと、魔界の城の階段へと戻ってきた。 「水火さんのことは僕が様子を見ますから、猫羽さんはそっちに集中して下さい!」 「うん――ごめんね、ユウヤ」 「猫羽ちゃん? 気が付いたの⁉」  術師の子供の声は聞こえていない赤い髪の娘が、背負う幼女が意識を戻したことに気が付いていた。 「蒼とユーオンの闘い、もう始まったの?」 「ううん……それはちょうど、これからみたい」  既に最上階に辿り着き、部屋の東西の扉に向かうべく、南側に赤い髪の娘と帽子の少年は待機していた。 「でも――母さん、今、部屋にいるね」 「そうなの。困ったことになっちゃった……流惟さんの目の前でちょろちょろしたら、さすがに気付かれるかと思って」  その最上階の寝所には、仔狐と共に城の主がいた。外からも明らかに感じられる強い気配に、赤い髪の娘が溜め息をついた。  そうして部屋の外の回廊で、南側に待機する一行をよそに。  下の階でも、剣士の少年と銀色の死神の対峙が始まる。  剣士の少年が、零時の方向にある部屋の扉に辿り着く前から、銀色の死神は気怠そうに部屋の中から出てきていた。 「……結局、また来たのか、アンタ達は」  今度は文句無く、剣士の少年も見覚えのある、黒い柄の宝剣を手にしている。青く光る刃を横に、死神は侵入者の剣士を暗赤の目で冷たく見据える。 「狐魄に手を出して……何がしたいんだ、アンタ達」  守れなかった義理の妹の代わりに、その獣を守るしかない死神。揺ぎ無き殺気が全て、目前の剣士に向けられる。  剣士は一つだけ死神に、気になっていたことを静かに尋ねた。 「オマエはここで――この城でいったい、何をしてるんだ?」 「……?」 「仔狐を守るために来たわけじゃないだろ。オマエの目的は、ここでは果たせそうなのか?」  真摯に尋ねる剣士に、さぁな、と――死神は正直な所を答える。 「俺は――……殺すのは得意だけど、助けるのは苦手だ」 「…………」  古くから続く、行き場無き呪い。それを淡々と口にする死神に、 「……自分でそう思ってるだけだろ、オマエは」  その「銀色」と、初めてまともに話をした兄弟子は嘆息する。  それだけ呟いた後、冷たい目で問答無用に斬りかかってくる死神に、自身の刀を抜き放った。
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