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「……え? 蒼ちゃん達は、屋上には向かわなさそう?」  最上階でひたすら待機する帽子の少年達と、人界に留まる術師の子供に同時に、幼女は観たままを伝える。 「兄さん、自分が不利ってわかってるから……ソウとマトモに闘わずに、狭い場所にいたいみたい」  純粋に剣技のみで対峙する広い場所は、つまり避けたいらしい。 「アイツ……ほんっとーに、闘いとなると見境ないのね」 「でも仕方ないよね。ユーオン君、体弱いもんね」  真っ当に対峙すれば長くは闘えない。消耗の大きい死神を詳しく知らない帽子の少年も、慮るように呟いていた。 「ユーオン君、かなり無理してるんでしょ? 猫羽ちゃん」 「うん……兄さんは、あの仔を守りたいだけだから」  そのためであれば、どんなことでもするという死神に、帽子の少年が困ったように笑った。 「わかってくれるといいな。僕達は別に、あの仔を傷付けたいわけじゃないって」 「……クウの言う通りだね」  たとえそれが、仔狐の願いに反することでも――ただ温かな思いでここまで来た者達を、何の暗幕も無しに今の兄が観たら、どんな思いを抱くだろう。それだけが幼女は気になっていた。  そんな幼女を、PHSを通じて術師の子供が現状に引き戻す。 「部屋の内の様子はわかりますか? 猫羽さん」 「何となくは……母さん、仕事があるけど何か探してて……あの仔はずっと、枕で眠ってる」 「それならその内、流惟さんは部屋を出られるかしら?」 「蒼ちゃんに時間を稼いでもらうしかないのかな。ごめんね蒼ちゃん、ユーオン君」  律儀に謝る帽子の少年に、その音声が届いている術師の子供は、呆れたように大きく溜め息をついた。 「危険なのは槶達も同じなんだから、油断しちゃ駄目だよ」  PHSの画面には、アンテナから紅い少女の戦局が届いている。紅い少女が僅かに押されていると伝える。 「…………」  最上階の己の寝所で何かを探す悪魔は、昨日何者かの侵入があったことは、銀色の死神から伝えられているようだった。 「……わたし達だって、母さん、多分わかってる」  元はその悪魔から与えられた鍵に、幼女は真意を測りかねた。  悪魔が探しているものすら感じ取った中、首を傾げるしかない。  しばらくして、ようやく悪魔が部屋を後にし、下に降りていった中で。  物騒な闘いを起こしている者達に気付かないよう、幼女はより強く暗幕を張り巡らせた。
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