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 悪魔の城主が出て行ったことを確認した後、すぐに東西二つの扉から別々に侵入した少年少女は、どちらの扉の鍵も固く閉め切る。 「悪いけどこれで、逃げられないわよね」  獣には開けられるはずのない、鍵のかかった扉。その後にそっと、赤い髪の娘と帽子の少年が、静かに寝台の方へと近付く。 「……」  幼女は悪魔が探していたものの方が気になり、眠る仔狐は年長者に任せ、小さな机の方へと向かう。 「……あ」  そこに放置されていたもの。それはまさに、この城を訪れた発端だった。  悪魔使いである幼女に、瑠璃色の髪の娘がまだ在るはずと、気付かせるきっかけになった媒介(たからもの)。  だからこそ悪魔もこの時に探した。先日までは確かに、瑠璃色の髪の娘が持っていた大切な物。 「やっぱり、母さん……――」  それをわざわざ置いていく母。母に宿る悪魔の望みも、幼女と同じだったことを悟る。  同じ望みを持ちながらも、叶う見込みも少ないことを悪魔は知っていた。そうして瑠璃色の髪の娘自身に、この先を選ばせることしかできなかったのだ。  小さな机の上にある、守り袋の巾着を幼女は手に取る。 「……あ……」  手に取るだけで自然と、涙がこぼれた。頬をどんどん温かいものが伝う。 「やっぱり……ここに、あるんだ……」  小さな巾着を広げてみる。奪われた魂の真の依り代を、感じるだけでなく確かめるため、全てを明るみに晒す。 ――つまんない物も入ってるけど、お守りになるといいな。  今まさに、広い寝台の方では、仔狐を捕獲しようと二人が呼吸を合わせている中で。  幸薄くも、常に微笑んでいられた瑠璃色の髪の娘を確かに支えてくれたもの。誰かが込めてくれた温かな思いがそこに在った。 ――ラピちゃんにいいことありますように。  その守り袋の中には、上質の天然の琥珀石から造られた、小さな狐の形の厄除けが入っている。  そこに共に、詰められていた想い。小さく折り畳まれた紙に書かれている文字。薄い針金で綴じられ、開かれた形跡がないので、瑠璃色の髪の娘はおそらく最後まで気付かなかった言伝。 ――ラピちゃんとずっと、仲良く一緒にいられますように。  捕まえた! と、帽子の少年が歓声をあげた横で――  瑠璃色の髪の娘はただ、開けた紙を握り締めながら立ち尽くした。
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