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 全く感知できない謎の侵入者に、突然全身の自由を奪われた仔狐は、しばらくじたばたと力の限りに暴れ回っていた。 「ごめんね、怖くないよ! 大人しくしてね!」 「猫羽ちゃん! 捕まえたけどこの仔、どうすればいいの⁉」  仔狐をなるべく傷付けないために、薄布にくるむ形で捕まえた二人は、寝台の足側にいる幼女の後ろ姿を必死に見つめる。 「…………」  娘達に背を向けたまま、幼女は呆然と立ち尽くしている。  辛うじて、巾着の中身を元に戻し、決して失くさないように腕に引っ掛けていた。そんな理性だけはそこで取り戻していた。  そして更に、言葉を話すための意識までもが戻る。 「……離して……」  ――え? と。かすれてしまった拙い声が、赤い髪の娘と帽子の少年には聞き取れなかったらしい。  その時不意に、薄布の内の仔狐が、くたっと動かなくなった。それにも気付き、二人は仔狐と幼女を交互に見つめる。  瑠璃色の髪の幼女は呻く――ただ、全身を襲う衝撃を堪える。  体は涙していることも、本来の自身が望んだ心もわからなかった。  ただそこに在る記憶が、理性で願い続けたことを、呪うように小さくなった声で口にする。 「離して……鶫、ちゃん」 「……え?」 「ちょっと――……猫羽、ちゃん?」  ゆっくりと、赤い髪の娘と帽子の少年の方に振り返った、瑠璃色の髪の幼女は……。 「私に……これ以上、近付かないで……」  ただひたすらに、消えない願い。  切なる己への怒りと、哀しみを湛えた顔で彼らを見つめる。 「……ラピ?」 「……ラピちゃん?」  仔狐を捕まえれば、瑠璃色の髪の娘に会えると幼女は口にしていた。その直観の本当の意味。  黒い女の介入が弱り、最早誰にも消しようのない(うつつ)。それと真っ直ぐに向き合うことになると、赤い髪の娘と帽子の少年は知る。 +++++
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